シーズンオフ企画「高校野球NOW」の第5回は、大阪古豪のプロ注目投手にスポットを当てます。

泉州時代に2度の甲子園出場がある近大泉州は、無名ながら昨春大阪桐蔭を苦しめた中尾純一朗投手(2年)が原石的存在。1968年(昭43)に甲子園で全国制覇した興国は、浅利太門投手(2年)に注目です。両投手とも185センチの長身。大阪桐蔭、履正社の大阪2強を脅かす“ナニワのツインタワー”を紹介します。【取材・構成=望月千草】

近大泉州・中尾は可能性の塊だ。「本当におもしろい逸材です。まったくの原石ですから」。同校を率いて7年目を迎える清水雅仁監督(57)は目を輝かせる。無限の可能性を感じさせたのは昨春の大阪府予選3回戦の大阪桐蔭戦だ。左スリークオーターから独特の軌道を描く直球とスライダーの2種類のみで対抗。「直球と変化球のコンビネーションに自信がある」という中尾のストロングポイントを発揮した。8安打されて敗れたが3失点で完投。強力打線を苦しめた。最速は138キロだが、技巧派の長身左腕をプロの複数球団が視察。素材の良さと将来性を評価されている。

実は前途は多難だった。中学時代は制球難で投手を全うしきれず主に一塁で出場。高校入学後、本人の希望もあって投手に復帰したが、基本のルールが抜け落ちていた。野球用語の意味、バント処理やけん制の仕方など、所作の指導を受けることから始まった。公式戦デビューした1年秋の上宮太子戦。1点リードの8回1死二塁。走者を背負った場面で振りかぶり、三盗を許したこともある。「普通ならセットポジションやろって。えぇ~ってみんなで驚きましたよ」。清水監督やナインを仰天させた。

だが不断の努力を重ね、プロ注目選手に成長した。メジャーを代表する長身左腕のランディ・ジョンソンを手本にしたフォームから、現在は球速アップを目指してオーバースローに挑戦中。ヨガに通って下半身に柔軟性が出た成果で球に力が加わり、新しい変化球の取得にも励んでいる。この2年間で公式戦登板はまだ4度だけ。「140キロをコンスタントに投げられるように。大阪桐蔭や履正社に通用する直球を投げたい。チームを勝たせる投手になりたい」。最後の夏を目指し、未完の大器が大阪の2強から、主役を奪い取る意気込みだ。

◆中尾純一朗(なかお・じゅんいちろう)2002年(平14)9月9日生まれ。大阪・堺市出身。浅香山小3年時にソフトボールを始め、浅香山中では軟式野球部で主に一塁手。近大泉州では1年秋からベンチ入り。185センチ、79キロ。左投げ右打ち。

○…中尾の天然エピソードは尽きない。ある夜の午後9時ごろのこと。グラウンドに、小刻みに揺れながら移動する光が浮かんでいた。不思議に思った清水監督が目を凝らすと、額に懐中電灯を固定してランニングする中尾だった。思わず「何してるんだ?」と聞くと、中尾は「照明をつけていいのか分からなかったので…」と苦笑いだった。だが、白球をペンに握り替えれば一転する。入試はトップ合格で、入学式で新入生代表のあいさつを務めたクレバーな頭脳の持ち主。国公立を目指す文系の進学クラスに所属している。清水監督が「不思議なやつ」と冗談めかす左腕の伸びしろは、計り知れない。