<高校野球千葉大会:磯辺12-3千葉南>◇2日◇1回戦◇青葉の森公園野球場

試合の裏に、高校野球ならではのドラマがあります。「心の栄冠」と題し、随時紹介します。

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「母に届くように、打ちました」。磯辺・鵜沢達弥内野手(3年)は、神妙に2発を振り返った。

4回無死、内角スライダーを振り抜く。打球は92メートルのフェンスを越え、高さ20メートルの防護ネットの最上段に突き刺さった。推定飛距離110メートル。同点にされた直後の5回は1死一、二塁から外寄りの直球を、右中間に3ラン。高校通算12号で突き放した。「決して、自分の力で打てたわけじゃない。みんなの応援があってこそ」と謙虚に話した。

誰より応援してくれた母に向け、打ちたかった。香織さんは昨年11月27日、劇症型心筋炎のため、急死した。48歳だった。搬送先の病室。意識の戻らない母の耳元で「夏は打つから、打つから…」。呪文のようにつぶやいた。

夜遅く、練習から帰宅すると、いつも玄関で迎えてくれた。「“お帰り”のあの声も、もう聞けないかと思うと…。悲しい」。前夜は仏壇に手を合わせ、夏の「約束」を繰り返した。観戦した父慎二さん(52)は、感慨深げに言った。「きっと、妻が“フーッ”って(打球に)息を吹き掛けてくれたのでしょう」。母との約束はもう1つ。消防士になること。その前に、母との「約束」はまだ終わらない。【玉置肇】