鵡川が16年ぶりに夏の円山で勝ちどきを上げた。流れを変えたのは1点を追いついた直後の7回だ。1死一塁、打席の今富龍は「みんなが『甲子園行くぞ』と叫んでいた。奮い立った」と、2ストライクからの3球目を豪快に引っ張った。鋭い打球が、外野を転がる間に、一塁から佐藤佳が激走。ヘッドスライディングで生還すると、ベンチもスタンドもわき返った。

昨春就任の小池啓之監督(70)は旭川龍谷、旭川南の監督時代に北大会を制しているが、監督として道大会で勝つのは旭川南時代の13年夏以来。南大会で勝つのは初で「出来過ぎ。2回も二塁走者を刺されながら、よくつないで点を取った」と踏ん張りをたたえた。

3校の監督、部長、コーチとして甲子園を春夏4度経験しているベテラン監督のもと、冬場は1日2000スイングをノルマに、徹底的に打撃を磨いた。前年冬の2倍の数に今富龍は「手がボロボロになった。でもそれだけやってきたことが自信につながった」。10安打でわずか2点も、勝負どころの6、7回で確実に決めきる素地になった。

“ショック療法”も効いた。昨秋、今春と背番号1のエース後藤は最後の夏、10番を背負う。春の地区予選の苫小牧中央戦で、自身の死球から自滅して8回7失点。精神面をたたきなおすための小池監督流の荒療治だった。後藤は勝ち越した後の8回から登板し、2回2安打無失点と、1点差を守り「背番号は関係ない。チームの勝利に貢献出来てうれしい」と喜んだ。

さまざまな魔法をかけ、力を引き出した小池監督は「選手も私もまだまだ未熟。これからまた練習です」。あくなき向上心を積み重ね、夏は初の聖地を目指す。【永野高輔】