<高校野球茨城大会:明秀学園日立8-1境>◇24日◇準決勝◇ノーブルホームスタジアム水戸

「彼が今、ユニホームを着てグラウンドに立っていることが奇跡なんです」。境(茨城)の金井光信監督(45)はベンチから一生懸命に声でチームメートを鼓舞する荒木颯太投手(3年)を見つめてつぶやいた。

昨年8月7日。荒木の17回目の誕生日だった。練習中、突然足が動かなくなり座り込んだ。荒木は「熱中症かと思ったんです。でも、言葉が出ない。右半身がしびれて力が入らない。目で必死に訴えました」。すぐに救急車で搬送され、診断は脳梗塞。すぐに手術を受け、意識が戻ったのは2日後だった。

右半身のまひと言葉の後遺症が少し残った。医師から、完治のためのリハビリは1年ほどかかると言われ、頭が真っ白になった。「僕の高校野球が終わってしまう…」。その時、テレビで放送されていた夏の甲子園が目に留まった。智弁和歌山の選手たちがひたむきに白球を追い掛け優勝する姿に心を奪われた。「もう1度、グラウンドに戻りたい」。少しずつ体を動かし、リハビリに励んだ。心の支えはチームメートから送られてきた動画。「グラウンドで待ってるからな」。約3分ほどの動画を、1日30分、何度もくり返し見ては力に変えた。

奇跡の復活はチームに力を与えた。現在は軽く走ったり、キャッチボールも30メートルまで投げられるようになった。金井監督は「試合に出られなくとも、逆境をはね返した荒木の存在はチームの力になる」と背番号20を与えた。その期待に応え、荒木はチームメートを支え続け、初の準決勝進出の原動力になった。「高校野球は自分のかけがえのないもの。やっててよかった」と笑った。そして「僕、あきらめない心は誰にも負けません」と胸を張った。【保坂淑子】