エースとして、流れは渡さない。明秀学園日立・猪俣駿太投手(3年)の心に火がついた。

3回表、先発の石川ケニー外野手(3年)が3四球で2死満塁。迎えた打者へカウント3-1としたところで、金沢成奉監督(55)が動いた。1点は覚悟したが「2失点は厳しい。猪俣なら1点に抑えてくれる」と、エースにマウンドを託した。

猪俣は直球が外れ押し出し四球で1点は失ったが、その後は凡打で切り抜けると流れに乗った。ストライク先行で直球を丁寧に内外に投げ分け、9回まで4安打に抑える好救援。時折マウンドでほえる、気迫あふれる投球で、流れを引き寄せた。

金沢監督との「ハグ」が猪俣を変えた。地方大会では不調が続き、フォームやスピードを意識し復調の糸口が見えなかった。今大会4日前、投球練習の前に監督と話し合った。「コツコツ努力をして、ここまできたんだ。その気持ちを忘れずにどうするんだ。丁寧に猪俣らしい粘り強いキレのある球を制球よく投げればいい」。金沢監督の言葉で、猪俣の気持ちが吹っ切れた。「もうやるしかない」。気持ちを切り替え臨んだブルペンでは本来の調子を取り戻した投球。「猪俣、ハグしようか!」2人で抱き合い復調を喜んだ。「監督とハグなんて…初めてのことで、率直にビックリしました」。迷いが消え、原点回帰で、夏の甲子園でも制球良く投げきった。

猪俣は「気持ちで成長した。直球で押し切れたのが一番の成長です」と胸を張った。明秀学園日立のエースとして。猪俣は堂々と投げ続ける。【保坂淑子】