初の夏の頂点を目指した愛工大名電(愛知)が敗退した。41年ぶりの夏3勝を挙げたが、快進撃はベスト8で止まった。

エース有馬伽久(がく、3年)が今大会最短の2回で降板。好調だった打線も8回、9回と1点ずつ返すのがやっとだった。

8回1死一、三塁のピンチ。これ以上点をやれない場面でマウンドの山田空暉(てんき、3年)を中心に円陣を組んだ。最後は全員で空を見上げた。視線の先には6月に急逝した3年生部員の瀬戸勝登(しょうと)さん。この夏、何度も行ってきた名電ナインの儀式だった。このピンチを無失点でしのいだ。

突然の訃報に、選手たちはどん底まで落ちた。倉野光生監督(63)は「このまま野球を続けられるのか」と思ったという。

それでも部の活動は止めなかった。瀬戸さんの両親の願いでもあり、グラウンドに立っている時は選手たちも心を保つことができた。「勝登と共に」「勝ち登る」と合言葉を定め、夏へ加速していった。

4番打者で、救援投手としても活躍した山田は笑顔で整列した。

「やり切った。後悔はないという気持ちが大きいです。大会前に落ち込んで練習が全然できなくなった時もあった。でも全員で、勝登の名前のように勝ち登って甲子園に行くぞとやってきて、甲子園でも3勝できた。気持ちが切れなかったことが自分たちの強みだと思っている。戦い切ることができて、よかった」

倉野監督は「よく立ち直って取り組んでくれた。思う力というのは、すごいものがある。あらためて経験させてもらいました」と2カ月半におよぶ激動の夏を振り返った。

▽愛工大名電・岩瀬(中日OB岩瀬仁紀氏の長男。2番手で登板し2失点)「最後の試合で結果を出せなかったことは悔しいが、あの場面で投げさせてもらえたことに感謝している。大学で活躍して社会人に行ってから、出来ればプロに行きたい」