06年夏に早実(西東京)で日本一に輝いた元日本ハム斎藤佑樹氏(34)による特別連載「斎藤佑樹が見た甲子園」。今回は、各校の投手を中心に準決勝2試合の戦いを見つめた。

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準々決勝と違って、最終的に点差が離れる展開になりました。2試合とも投手力の差、能力の差ではなく、疲れを含めた投手力の差が出た印象です。

仙台育英は140キロを投げる投手が5人いるチーム。みんなきっちりと準備して、ストライク先行で自分の仕事をこなしてました。2番手で登板した湯田君はピンチの場面でも三振が取れる強みがあります。スライダー、フォークも効果的に使ってましたね。

先発、完投を考えると、どうしてもフォーシーム主体になる。変化球が多いと肩肘への負担がかかって難しいですから。僕の場合は直球とスライダーの2種類で、負担を減らして完投する形でした。でも湯田君は変化球の割合が大きい。無失点に抑えた5回までの3イニングは直球22球で変化球は19球。今はこういう投手が増えてますね。これも完投ではなく、継投で戦えるチームの1つの強みになっていると感じました。

昔と野球は変わってきてます。聖光学院の佐山君は、球数制限がなければ最後まで投げていたかもしれません。でも選手の体を守る意味でも、周りがちゃんと止めてあげることは大事だと思います。僕自身も、将来ケガをすると思って野球はやってなかったし、甲子園に行ったら特に、目の前の1球しか追いかけてない。気が付かないうちに肘が下がっているかもしれないし、肩の可動域が狭まっているかもしれませんから。

第2試合の近江の山田君は、本当に魅力があるピッチングで、この先のステージで見るのが楽しみです。あれだけスピードがあって、多彩な変化球を操れる。プロでも、直球のスピードに対して、フォークは90~93%だと空振りが取りやすいデータがあります。

3回2死二、三塁のピンチでは相手の4番に148キロを見せて、最後は138キロの落ちるボールで三振を奪いました。まさに93%のスピードで、理想的でした。下関国際の仲井君もすごく良かったですね。速いだけじゃなくて、ボールに勢いがある。インコースに投げるのは、当ててしまう恐怖心がありますが、臆することなくどんどん投げてました。バッターは踏み込みにくくなったと思います。

いよいよ決勝戦です。僕自身は大観衆の中で投げたあと、1人になる時間を大切にしてました。宿舎でも集団生活で気が休まらないことが多い。当時は酸素カプセルがあって、その中に入る時間が貴重でした。30分でも1時間でも1人になると、気持ちはすごく楽になると思います。高校野球は、成長している真っ最中。きっかけをつかむと選手として大きく変わることがある。準決勝の経験がさらに、決勝に向けて自分を成長させると感じてます。