日米通算4367安打のイチロー氏(49=マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクター)が27日、都立新宿のグラウンドで、同校の男子硬式野球部員を前日26日に続いて指導した。

これまでとは違い、決して強豪とは言えない有数の公立進学校を選んだのはイチロー氏の意思だった。

学校は新宿三丁目駅に近く、グラウンドは狭い三角形の形。外野フェンスの奥に新宿御苑の森が広がる、まさに大都会にある。

26日の初日、午後1時。黒のパーカー、青のハーフパンツ、帽子、サングラス姿で登場したイチロー氏。最初は、選手たちの表情に戸惑いと笑顔が入り交じった。イチロー氏は自ら柔らかい空気を作った。「わけわかんないよね? (自分を)知っている? リクエストがあって来たわけじゃなく、僕が興味があって来ました」とあいさつした。

グラウンドは他部と共用。平日の練習時間はわずか1時間半。その事情を知っているイチロー氏は、小学生向けのアカデミー開催など競技普及にも熱心な新宿に興味を寄せた。

「みんなは学業が一番。勉強を頑張っている中、野球が好きな子が来ている。勉強をやりながら野球をやるのは時間も限られている。グラウンドも限られたスペース。そうなると自分たちの野球をやるのが精いっぱい。それなのに、みんなは地域の野球の普及活動を熱心にやっている」と訪問理由を伝えた。

イチロー氏は2日間の指導を終えて、あらためてこう話した。

「高校野球ではその学校によってチームの形、目標設定はさまざまで、必ずしも甲子園優勝を目標としている学校ばかりではない。大切なことは『野球が好きで情熱を持っている』こと。都立新宿高校は、学業も頑張りながら好きな野球を続けているだけでなく、小学生を対象とした野球の普及活動にも熱心に取り組んでいると聞きました。限られた時間の中で、いろいろなことに取り組んでいる高校生たちと一緒に野球をやってみたいと考え、自らの意思で訪問させていただくことを決めました」

 

20年2月に学生野球資格を回復したイチロー氏の高校野球指導は3年目で5校目。公立校への訪問は昨年の高松商に続いて2回目だが、今回は都心の進学校だ。これまでは20年12月に智弁和歌山、21年に国学院久我山(東京)、千葉明徳、高松商で熱血指導した。

今年初めての高校訪問を終えたイチロー氏は「今後も時間の許す限り、野球への情熱を持って頑張っている高校生たちのもとを訪れたいと考えている」と、活動の継続を約束した。

 

<過去のイチロー氏の高校野球指導>

◆<1>智弁和歌山(20年12月2~4日)初日は「観察」、2日目から徐々に指導を開始し、最終日にはフリー打撃も披露した。21年の甲子園大会前にも「ちゃんと見てるよ」とメッセージを届け、21年夏にチームは21年ぶりの頂点に立った。

◆<2>国学院久我山(21年11月29、30日)フリー打撃で72スイングし11本の柵越え。三振しない「最後のテクニック」を伝授した。リードの取り方など走塁技術も惜しみなく指導。チームは22年センバツで初の4強進出と快進撃につなげた。

◆<3>千葉明徳(21年12月2、3日)初めて甲子園出場経験のない高校を訪問。ナインだけでなく指導者にも助言。「(練習は)メリハリが大事。ダラダラが怖い」と話し、試合中の采配についても具体的なアドバイスを送った。今夏は甲子園出場した市船橋に4回戦で敗れた。

◆<4>高松商(21年12月11、12日)21年夏の甲子園で智弁和歌山に敗れた長尾監督が「イチローさんにうちにも来てほしい」とラブコールを送って指導が実現。翌年巨人にドラフト1位指名される浅野翔吾(巨人)らを前に、狙いを説明しながらフリー打撃を行うなど手本となって技術を伝えた。「この2日間の時間をたまに思い出してほしい」とティー打撃で使用したバットをプレゼント。同校は今夏の甲子園で8強入りした。