低反発の新基準バットが導入された今大会は「野球の華」と言われる本塁打が激減した。全体の本数は3本で、サクを超えたのは豊川(愛知)のモイセエフ・ニキータ外野手(3年)と神村学園(鹿児島)・正林輝大外野手(3年)の2本。残る1本は大阪桐蔭・境亮陽外野手(3年)のランニング本塁打だった。

金属バットが導入された1975年以降、最少は96年の5本だった。その記録を更新する結果になった。「芯で捉えないと飛ばない」と言われた低反発バット。報徳学園・今朝丸裕喜(3年)や高崎健康福祉大高崎・佐藤龍月(りゅうが=2年)ら好投手の投球の影響も大きいだろうが、甲子園に集う観客の楽しみの1つが激減する結果に。決勝を戦った2校も本塁打ゼロに終わったが、日本高野連の井本事務局長は「決勝に進んだ両校はアジャストしていたと思います。シーズンが始まったばかりで、真剣勝負の生きた球を打つ機会は春先はまだ少ない。ここから先、春を超えて夏になるとどんどん真剣勝負というか、場数を踏んでこられる。そうなったらもしかしたらもう少し変わってくるかもしれない。春を経験して夏を迎えられて、というところかなと思います」と、この先の対応力を見守る。

新基準バット導入時は、試合時間の短縮も予想された。当初は1時間半前後と予想する関係者もいた。だが大会が始まってみれば、2時間を切ったのは31試合中12試合にとどまった。この点について井本事務局長は「ファウルの増加を指摘する方もおられました。待球してるわけではなく、打ち損じているわけなので。ファウルが多いから、投手の球数が増えている。試合時間はみなさんが思っていたほど、我々が期待したほどではなかったのかな、と」と検証した。この点も、各校打者の対応力が増してくれば変わる可能性はある。

また報徳学園のように、新基準バットの打球に対応し、好守、堅守を連発したチームがあった。山岡純平-橋本友樹(両2年)の二遊間、三塁の西村大和(3年)の捕球、送球は幾度となく投手を救い、ファンをうならせた。出場選手の中から広島菊池、西武源田のような名手が生まれれば、今大会のレガシー(遺産)になりうる。

大会への注目度を示す指標の1つ、観客数も苦戦した。総入場者数は32万6900人。決勝の動員数3万4200人は昨年の3万人を上回ったが、全体の総数は、17年以降では、動員数に新型コロナ感染拡大を防ぐ上限が設けられた21、22年を除けばワーストの数字に。開幕後、季節が冬に逆戻りしたかのような寒さが続き、グラウンドに雪が舞った日もあった。大会最初の土日にあたる22、23日がともに雨天中止と、雨にもたたられる結果にもなった。

◆大会3本塁打 今大会の本塁打はモイセエフ(豊川)、正林(神村学園)、境(大阪桐蔭=ランニング)の3本。センバツの大会3本以下は木製バット時代の74年(1本)以来50年ぶり。75年の金属バット採用後では96年の5本を下回る最少だった。

◆ノーアーチV 高崎健康福祉大高崎は本塁打なし。センバツで本塁打を打たずに優勝したのは01年常総学院以来23年ぶり。