<全国高校野球選手権:唐津商9-4古川工>◇8日◇1回戦

 初出場の古川工(宮城)が、唐津商(佐賀)に敗れ、83年の仙台商以来となる公立勢の夏の勝利を挙げることはできなかった。先発山田大貴投手(3年)が立ち上がりに緊張から崩れ、2回までに9失点。だが、3回以降は立ち直り、2安打無失点と踏ん張った。攻撃陣も大会屈指の好投手北方悠誠(3年)から4点を奪った。敗れはしたが、最後まで諦めない戦いぶりは被災地宮城に、東北に勇気を与えた。

 絶望的な展開でも、山田の心は折れなかった。1回、4安打3四死球で一挙7点を失い、2回を終わって0-9。間橋康生監督(40)が「何点取られているか分かってない子もいた」と言うほど、選手は心ここにあらずの体だった。気持ちが切れてもおかしくなかったが、山田の闘争心はなえなかった。諦めなかった。

 3回を3者凡退に抑え、リズムを取り戻す。130キロ台中盤の直球がコーナーに決まり、フォークも低めに沈み始めた。「何が起こってるかも分からなかったけど、やっと慣れた」。3回以降は序盤の乱れがうそのような快投を見せた。

 2年半前とは別人に生まれ変わっていた。入学直後、担任の三浦剛教諭に言葉遣いを直され続けた。「高校生活に向けて」というテーマの作文には「中学とは違う雰囲気で違和感がある」と書き、野球でも、味方のエラーにイラついた。

 昨夏の宮城大会直前。石巻市民球場での練習試合で打ち込まれた。間橋監督が球場周辺のランニングを命じると「走って帰らせてください」と申し出た。学校まで約40キロ。正午前に出て、日が暮れた頃に帰ってきた。只埜達郎遊撃手(3年)は「大貴も変わろうとしている」と驚いた。

 2失策が絡んだ1回。マウンドの山田は味方に声をかけ、攻撃時にはベンチの最前列で声をからした。

 山田

 甲子園は良い場所でもあり、苦しい場所でもあった。でも苦しめない人もいる。自分たちは宮城の代表。(ベンチ裏で)休んでられる立場じゃない。

 4回には中前に2点適時打。「自分が取られた点だから」。仲間から厳しい言葉を浴びたこともある。でも「かけがえのない時間だった。このメンバーでできたのは宝物」と素直に思えた。三浦教諭が「立派になった」と言えば、間橋監督は「みんなに守ってもらうという謙虚な気持ちが出てきた」と一皮も二皮もむけた成長ぶりに目を細めた。

 試合終了後、諦めないプレーに、大きな拍手が起きた。「みなさんの声援がなければ、ここまで粘れなかった」(今野主将)という感謝の気持ちが、アルプス応援席に一礼した後、一塁後方の一般観戦席にも頭を下げたナインの姿に表れていた。「自分たちが一生懸命やったことで、少しでも元気になってもらえたらうれしい」と山田。最後の夏、被災地宮城、仲間を思って戦ったその思いはきっと故郷に届いた。【今井恵太】