<全国高校野球選手権:能代商5-3神村学園>◇9日◇1回戦

 能代商の甲子園初勝利は、秋田県勢にとっても大きな1勝となった。神村学園(鹿児島)に逆転勝ちし、98年から続いていた県勢の連続初戦敗退を「13」で止めた。負ければ都道府県別でワーストの危機だったが、主将の4番山田一貴外野手(3年)が3安打1打点と大活躍。元阪急投手で通算284勝の山田久志氏(63=日刊スポーツ評論家)と親戚関係にある主砲のバットが、呪縛を振り払った。

 大舞台に強いDNAが、秋田の負の歴史に終止符を打った。1-3の6回1死二、三塁。4番山田一が、初球の外角直球をバットの先端で拾う。この右前適時打をきっかけに、この回一挙4得点で逆転した。「1年間の成果が出た。うれしい」と、目は真っ赤だった。

 祖父久信さん(77)と山田氏がいとこ同士という親戚関係で、「血筋」はいい。サブマリン投法で通算284勝を挙げた山田氏には一昨年、すしをごちそうしてもらった。「山田家の伝説の人です」。能代南中3年時には投手に挑戦した。山田氏のようにうまくはいかなかったが「栄光に近道なし」と書いてもらった色紙を自室に飾り、励みにしてきた。

 悔しさをバネにしてきた。昨夏の初戦鹿児島実戦(0-15)。5番右翼で先発し、3打席3三振の屈辱を味わった。自身の生後6カ月に乳がんで亡くなった母基子さん(享年35)、5年前に白血病で逝った父義信さん(享年48)の仏壇に、甲子園の土を入れたビンを供えた。「鹿実に勝つ」。あれから1年。工藤明監督(35)が「一番朝早く来て打撃マシンをセットして、最後に帰る」と脱帽するほどの練習量をこなした。

 7日、宿舎を訪れた山田氏から「去年みたいに三振するなよ。(秋田大会)2連覇はすごいんだから、堂々とプレーしろ」と激励された。秋田大会で打率1割9分と不振にあえいだが、4回に中堅フェンス直撃の二塁打を放つなど、聖地で3安打1打点の大暴れ。山田氏に何と報告したいかと聞かれると「ごほうびが欲しい。こっちで高い料理が食べたい」とちゃめっ気たっぷりの笑顔で“おねだり”した。甲子園で初めて校歌が鳴り響いた。鹿児島勢にもリベンジした。山田一、チーム、そして秋田県にとって特別な1勝となった。【今井恵太】