<高校野球宮城大会:東北7-0石巻工>◇16日◇3回戦◇Kスタ宮城

 石巻工の夏が終わった。東北に7回コールドで完敗。東日本大震災を乗り越え、チームは今春センバツに21世紀枠で出場。阿部翔人主将ら3年生は激動の1年4カ月で何物にも替え難い経験をした。

 諦めない戦いを続けてきた石巻工の夏が、あまりに早すぎる終末を迎えた。最後の打者となった4番阿部主将は、整列後のグラウンドに泣き伏せた。松本嘉次監督(45)に抱きかかえられてベンチに戻っても、おえつが止まらない。「一緒につらいことも頑張ってきた仲間。1日でも長く、このユニホームでやりたかった」と声を震わせた。

 2季連続甲子園に向けて始動した春は、どん底からのスタートだった。東部地区予選初戦でまさかの敗戦。士気が上がらないまま県大会は2回戦で散り、阿部主将は「投げ出したい時期もあった」と悩んだ。

 震災を乗り越えて出場したセンバツ。スタンドから降ってきた言葉を、今でも鮮明に覚えている。「ありがとう」「夏も待ってるぞ」。試合直後には出なかった涙が、途端にあふれてきた。石巻に戻っても、周囲からの夏への期待を痛いほど感じる。「うまく野球をしなきゃという雰囲気だった」(阿部主将)。練習試合をすれば、相手は「甲子園に出た学校だ」と目の色を変えてくる。結果も芳しくなく、厳しいマークでけが人が続出。大幅に変えざるを得なかった布陣の影響か、この日は4失策のうち3つが失点にからんだ。

 阿部主将は言う。「1つになれば大きな力が生まれる。1人でも道を外れれば、力は生まれない」。グラウンドのヘドロを全員で片付けた昨春。先輩の魂を受け継いだ夏。快進撃を続けた昨秋。センバツ出場が決まった冬、そして苦悩した今春。昨年末、松本監督が「奇跡ってあると思うか?」と選手に問い掛けたが、誰1人として首を縦に振らなかった。1歩ずつでも前に進んできたから「どんなことでも乗り越えられる」(阿部主将)と思える。

 この日誕生日だった松本監督は「良い顔してるな。最高の誕生日プレゼントです。本当にいい夢を見させてもらった。全国動かしてきたんだ、そんな選手いないよ」と泣きじゃくる選手に語りかけた。その目は、うっすらと光っていた。【今井恵太】