<センバツ高校野球:尚志館2-1大和広陵>◇24日◇2回戦

 歴史的1勝だ。鹿児島・大隅半島から初めて甲子園に出場した尚志館が、大和広陵(奈良)に逆転勝ちした。0-1の9回、無死満塁から関拓哉二塁手(3年)が逆転の2点適時二塁打を放った。エース右腕の吉国拓哉(3年)が1失点完投。全員が大隅半島4市5町出身という選手のつながりで春を呼び込んだ。3回戦は第8日に北照(北海道)と対戦する。

 伝令が走る。9回裏2死走者なしで打席に4番。尚志館のエース吉国の1球目が外れた後だった。ベンチから走った丸山は、内野陣が集まるマウンドをグルッと回って輪の中に入った。まさかの動きに硬い表情がほぐれる。審判に「真っすぐ走りなさい!」と注意された丸山だが「変わったことをしてみんなを笑顔にさせようと思った。マウンドの周りは意外と長かった」と悪びれずに笑顔を見せた。

 グラウンド、ベンチ、そしてスタンド。全員のつながりで大隅半島に甲子園1勝をもたらした。無得点で迎えた最終回でも、悲観的ムードはなかった。連続安打で無死一、三塁から5番の半下石(はんげいし)が9球粘った四球でつないだ無死満塁。「思い切り打つだけでした」という関が追い込まれながら、膝元スライダーを仕留めた。右翼線へ逆転の2点二塁打。「とても最高です」。応援団で埋まった一塁側アルプス席は鹿児島おはら節を奏で、踊って大騒ぎだった。

 選手全員が大隅半島の出身。「優秀な子はやはり鹿児島市内へ出る」と鮎川隆憲監督(47)は言う。技術では劣っても、負けないのが絆。ソフトボールが盛んな地域で、幼いころから顔なじみで育ってきた。新原主将も「うちはチームワークが強い」と最大の武器に掲げた。

 甲子園への移動手段はフェリー。チームも応援団も一晩かけて海をわたって聖地へ。そんな苦労も吹き飛ぶ感動を生んだ。エース吉国が冗談で言った。「ここで負けたら、ただの寄付金ドロボーと言われますから」。明るい大隅半島の子どもたちが、大きな喜びを地元に届けた。【実藤健一】

 ◆大隅半島

 九州の南端に位置する半島。曽於市、志布志市、垂水市、鹿屋市の4市と大崎町、東串良町、肝付町、錦江町、南大隅町の5町で、尚志館は志布志市にある。反対側の鹿児島市中心部があるのは薩摩半島。