<全国高校野球選手権:聖光学院4-3愛工大名電>◇9日◇1回戦

 聖光学院(福島)が、愛工大名電(愛知)に逆転勝ちし、4年連続の初戦突破を果たした。初回に2点を先制され、5回に三重殺を決められるなど悪い流れの中、1-3の6回裏から代打出場した酒谷遼外野手(3年)がソロ本塁打。続く7回2死満塁で逆転2点適時打を放ち、勝利を呼び込んだ。

 聖光学院が「負けない力」を発揮した。初回に2点を先制され追う展開も、丁寧に内角に投げ込んでくる愛工大名電の左腕エース東克樹(3年)をなかなか攻略できない。1-2で1点を追う5回裏に三重殺を決められ、さらに6回表に1点を失う。中盤までは完全に「負けゲーム」だった。

 代打酒谷の1発が、悪いムードを断ち切った。6回裏、先頭で代打に出ると初球をいきなり右翼へぶち込んだ。これで2-3の1点差。続く7回には、2死満塁のチャンスでフルカウントに追い込まれてから左前2点適時打。逆転に成功し、一気に勝ちを引き寄せた。

 苦しい試合にも、殊勲の酒谷は「心の余裕があった」と振り返る。「県大会でもこういう試合があったので今日も生かせた」。相手にマークされる中、二塁打を含む2安打を打った園部聡内野手(3年)も「免疫がついていました」。5点差をひっくり返した準々決勝の学法石川戦。9回2死から追いつき、延長10回でサヨナラ勝ちした日大東北との決勝。修羅場を乗り越えてきた自信が、逆転劇につながった。

 投げても新旧エースが踏ん張った。先発は今大会から背番号が「1」から「10」になった左腕石井成(2年)。本調子ではなく、初回に球が浮いて2ランを浴びたが、そこから切り替え腕を思い切り振った。5戦22安打14失点と打ち込まれた県大会後、毎日1、2時間走り込み、多い時には150球投げ込んできた。「自分はこれが精いっぱいです」。甲子園まで必死に調子を上げてきた成果で、6回3失点。斎藤智也監督(50)は「3失点は上出来。100点」とたたえた。

 7回からは新エース今祐也(3年)が登板。甲子園初マウンドも「球場に慣れてからあがったので良かった。すぐ自分のゾーンに入れた」。直球とフォーク主体に、スライダーも織り交ぜ2安打無失点に抑えた。「今もよく踏ん張ってくれた」と斎藤監督。新旧エースの継投が成功した。

 甲子園7年連続出場で県内92連勝。全国で知られる強豪でありながら、超低姿勢で甲子園に乗り込んできた。「もともと力が無いので、無欲でいきたい。本能で打って、本能で投げて、本能で指揮したい」と試合前に斎藤監督が話していた通り、ミスがあっても最後は勝ちを引き寄せた。従来の聖光学院が求めてきた「機動力」野球とは離れた異色のチーム。だが、土壇場で力を発揮する底力がある。肝がすわった聖光ナインが、また負けない自信を付けた。【高場泉穂】