<全国高校野球選手権:日大山形7-1日大三>◇13日◇2回戦

 日大山形が、優勝候補の日大三(西東京)に快勝した。右腕エース庄司瑞(みずき)投手(3年)が、大会屈指の強力打線を相手に5安打1失点で完投。3月の練習試合で敗れた相手にリベンジを果たした。打線も、4番奥村展征主将(3年)の先制2ランを皮切りに先発全員の12安打。エースを強力に援護し、東京勢から初めての勝利を挙げた。

 エース庄司が、大会屈指の強力打線をねじ伏せた。相手は、西東京大会を1試合平均12・5点の攻撃力で制した日大三。4番奥村の2ランで先制したその裏、2番稲見にソロ本塁打を浴びたが、そこから立ち直った。毎回のように走者を出しながら、三塁を踏ませない。朝食の時、リリーフの斎藤涼汰(3年)に誓った。「俺が全部投げっから、出番はないわ」。言葉どおり、9回150球を投げ抜いた。

 先のことなど考えなかった。1回の先頭打者。いきなり自己最速を2キロ更新する143キロをマークした。ナチュラルにシュート回転する“動く直球”に、右打者が8人並んだ日大三打線は苦戦。ボールゾーンから外角いっぱいに入ってくる球に手が出ない。浅沼孝紀捕手(3年)は「アウトコースに反応してこない。甘いコースしか打ってこない」と分析通りに“外攻め”を貫いた。庄司もストライクからボールになるスライダーを外角低めに集め続けた。「1回1回が早く感じた」。試合を楽しめるほどの余裕さえあった。

 最後の夏、ついに覚醒の時を迎えた。幼少期は「骨折ばかりしている子だった」(母真弓さん)。昨秋もエースナンバーを背負えず、直球の最速も120キロ台だった。今年3月の日大三との練習試合は、先発して6-8で敗戦。今夏の山形大会も、完投勝利は1試合もなかった。荒木準也監督(41)は「5回で100球近かった。ベンチでマネジャーに『何球だ?』と聞いた時、彼は聞こえたのでしょう。『最後まで投げるぞ』と勝手に叫んでいた」と、はい上がってきたエースの意地をたたえた。

 打線も、強力に援護した。奥村の2ランを皮切りに先発全員の12安打。7回には、相手のお株を奪う打者一巡5得点の猛攻で突き放した。ダメ押しの2点適時打を放った2番中野拓夢内野手(2年)は「うちも打線は自信がある」と胸を張る。冬場の1日1000スイング、通常(18・44メートル)よりも5メートル打撃投手を前に出しての打ち込み…。今春の東北大会にすら出場できなかったチームが、夢の舞台でその力を存分に発揮した。

 聖光学院、仙台育英、弘前学院聖愛、花巻東。東北勢5校の初戦突破は史上初だ。主将の奥村は言う。「東北のレベルは上がっていると言われる。山形が置いていかれているというのも言われている。でもそれは関係ない。甲子園ベスト4を目指して、山形の人に恩返ししていきたい」。山形の意地を見せる機会は、まだある。【今井恵太】