<全国高校野球選手権:敦賀気比16-1盛岡大付>◇20日◇3回戦

 2勝の壁は厚かった。盛岡大付(岩手)が、敦賀気比(福井)に大差で敗れた。右肘靱帯(じんたい)炎症を抱えながら先発したドラフト候補右腕松本裕樹(3年)が2回2/3で10安打9失点と打ち込まれ、降板。桜糀大輝(3年)ら3人の左腕がマウンドを引き継いだが、敦賀気比打線の勢いを止められなかった。

 悪夢のように、松本に敦賀気比打線が襲いかかった。1-1の同点で迎えた3回表、先頭の敦賀気比3番浅井洸耶(3年)に勝ち越しのソロアーチを浴びた。「打たれた瞬間にいったな、と思った。せっかく取ってもらった1点だったのに、悔しかった」。さらに5安打と失策が絡み、打者一巡。その回だけで8失点し、マウンドを降りた。松本は試合後「自分が試合を壊してしまった。申し訳ない」と悔しさをにじませた。

 万全の状態ではなかった。初戦の東海大相模(神奈川)戦では、右肘の痛みをこらえ、変化球を巧みに使いながら9回123球3失点完投勝利。中3日空いたこともあり、この日は自ら先発を志願したが「思ったより良くなかった」。腕が振れず、浮いた球をとらえられた。前日、松本に「エースの責任を果たしてくれ」と声をかけていた関口清治監督(37)は「粘ってほしいと思って…。(代える)勇気がなかった」と、自らを責めた。

 だが、大乱調の松本を誰も責めなかった。狐崎楓月捕手(3年)は「普段の威力はなかった」。肘の痛みについて、打ち明けられてはいたが「自分が思っていたより重症だったのかな」と松本をかばった。2番手で登板した桜糀は「何とか助けてあげようと思った」。野球に対する姿勢、マウンドの堂々とした姿、ずっと松本に追いつこうと努力を重ねてきた。

 控え捕手で主将の前川剛大(3年)は、7回から出場し、9回に左越えの二塁打で意地を見せた。昨秋の新チームスタート時は松本が主将だったが、すぐに前川に代わった。負担を減らすためだった。「あいつがいなかったらここに立てていない。背中でチームを引っ張ってくれた」。寮の部屋をこっそり抜け出し、外で1人振り込みをする松本の背中を全員が追いかけたことで、チームが強くなれた。

 04年夏の1回戦で2-15で明徳義塾(高知)に敗れたのが甲子園での最多失点。それを上回る16失点を甲子園で経験した。だが、優勝候補の東海大相模を破り、悲願の初勝利も挙げた。松本は「またここに来て勝ってほしい」と、思いを後輩に託した。【高場泉穂】