ヤンキースのレジェンドとして球界ナンバーワンの人気を誇ったデレク・ジーター氏が今、恐らく人生初であろう大きな批判に晒されている。マーリンズの共同オーナーとなり経営の実権を握ったばかりの同氏だが、そのやり方があまりにも非情でビジネスライク過ぎるというのだ。

 就任後、手始めに行った球団レジェンドたちの解任が、まず大きな批判の的となった。監督として03年にチームを2度目の世界一に導いたジャック・マッキーン氏、偉大な打者として野球殿堂入りしたトニー・ペレス氏とアンドレ・ドーソン氏、そして「ミスター・マーリン」と呼ばれ地元ファンに慕われるジェフ・コーナイン氏という球団を象徴する大物たちと、来季以降の契約を結ばない決断をしたのだ。契約延長のオファーは一応出したが、年俸の75%をカットし年2万5000ドルという薄給だったため誰も受け入れず、実質的なリストラとなった。さらに、前経営陣が「いたいだけ、いてほしい」と長期残留を望んでいたイチローについても、200万ドルの来季契約選択権を破棄し、自由契約とした。球団公式のSNSには、イチロー放出についてファンからの非難が殺到した。

 情や縁故が意外に重視されるメジャー球界で、徹底したビジネスライクなやり方はかなり異質だが、果たしてこれが成功するのかどうか、注目が集まっている。そんな中、一部のファンやメディアでひそかに話題になっているのが、マーリンズが出した求人募集だ。「プレジデント・オブ・ビジネス・オペレーション」という、営業面全般を統括する部門の責任者を公募しているのだ。メジャーの球団が職員を一般公募することはよくあるが、幹部クラス、しかも部門のトップを一般公募するというのはこれまで聞いたことがない。

 募集内容を見ると、まず「これは、営業部門全般の責任を負う役職です。同部門は経理、情報技術、人事、販売、マーケティング、球場運営と球場内物販、対法人営業、地域活動が含まれます」と説明されている。さらに募集の背景について「マイアミ・マーリンズは、この役職に興味があり、条件を十分に満たしている人材を全米から探すためにターンキー・リサーチ社にリクルート業務を委託しました。この役職は、デレク・ジーターCEO(最高経営責任者)の直属の部下となり、オーナー陣、顧客、地域のためにビジネス面と球場運営を担うものです」などと説明がある。

 ジーター氏ほどの大物ならば人脈も抱負だろうが、つてに頼らずあえて広い範囲で幹部クラスを公募するというのは、ビジネスライクな姿勢に徹してのことなのだろう。もしこの公募で優秀な人材を見つけ、営業面で大きな成果を出せば、周囲の評価も180度変わるのかもしれない。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)