最善の備えで来る開幕を待つ-。新型コロナウイルスの感染拡大で、メジャーは3月中旬にオープン戦とキャンプを中止し、開幕戦の延期が決まった。現時点で開幕時期は不透明。

カリフォルニア州などでは外出禁止令が出されている中、レッズ秋山翔吾外野手(31)が、自主トレ先のロサンゼルスで電話取材に応じた。メジャー1年目でいきなり直面した難局。困難との向き合い方を明かした。【取材・構成=斎藤庸裕】

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秋山、元気です-。米アリゾナ州のキャンプ地からカリフォルニア州ロサンゼルスへ拠点を移して約2週間。飲食店は閉店し、不要な外出もできない。そんな中、秋山は自炊を始めた。

「みそ汁を作ってます。(自炊は)ほぼ初めて。隠し味を入れるほど、まだ基本が出来てないです」

週に1~2度、滞在先の近くのスーパーへ買い出しに行く。毎晩のように包丁を手に豆腐、ネギ、油揚げなどの具を切り、みそと混ぜて味を調える。定番は白米、肉、サラダ、みそ汁の「ザ・男メシ」だ。同居している通訳兼球団広報のルーク篠田氏と毎日、自炊で食事を済ませている。

「肉に火を通すのはルークの役目。自分はみそ汁担当ですね。今のところは、練習して、ゆっくりして、ご飯を作って、みたいな生活がはまっている」

自炊の基礎固め? はさておき、プロとしての体づくりはしっかり進めている。キャンプ中より1時間遅いが、午前7時半頃に起床。週5日のサイクルで午前中はトレーニングに励む。

「強度としては(例年の)12月の追い込み方っていう感じ。シーズン中にやったら結構しんどいっていうメニュー。投げたり、打ったりもしてますね」

ウエート&サーキットトレーニングで筋力強化と有酸素運動に集中する日、スピード系のトレーニングで体のキレを重視する日に分け、コンディションを整える。キャッチボールやティー打撃も行っているが、実戦で打席を重ねていた3月上旬から、オフの自主トレの状態に逆戻り。メジャー1年目で、思わぬ困難に直面した。

「(切り替えは)難しいですけど、しょうがないですよね。みんな同じなので。今は、こういうもんだと思うしかない」

プロ1年目もいきなり難局と向き合った。西武ルーキーイヤーの2011年。東日本大震災の影響で開幕が延期となった。この年は110試合の出場で打率2割3分2厘に終わった。

「単純にあのときは力がなかった。プロ野球ってこういうもんっていうのも分からないまま、夢中にやっていた。順応性がなかったというか…。今は、アメリカでこういう変化があったとしても、日本でやっていた9年間のプロとしてのペース作りとか、こうやって練習をやった方がいいとか、こういう準備をした方がいいとか(が分かる)。無知じゃない」

今季もまだ、先行きは不透明。それでも柔軟に対応できる。日本で積み上げた経験が、糧となって生きている。

「自分自身が準備しておくしかないし、気持ちを切るわけにはいかない。日本にいた時も趣味があるわけじゃなく、ストレス発散をしないといけないってタイプじゃなかった。野球をやっているとき、汗をかいているときが一番いい。それが今もそばにあるから、元気にやっていますって感じですね」

試合はできなくとも、野球には触れられる。その機会を友人たちが整えてくれた。州によって事態の深刻さは異なるが、カリフォルニア州は現在、外出禁止令が出されている。国や州の方針に従い、選手たちは球団施設などで集団での練習が出来ない。各自で練習場所を確保して自主トレを行う状況だ。そんな中、秋山は現在拠点とするトレーニング施設を、同い年のツインズ前田健太投手(31)から紹介してもらった。

「ケンタに手助けしてもらったのもそうだし、(施設の)トレーナーの方もそうだし、いろんな人が、いろんな手段を考えてくれている。人の力で支えられているなっていうのは、やっぱり思いましたよね」

午後の空き時間には、ほぼ毎日、家族とテレビ電話。夫人と2人の子供は3月中旬に渡米し、レッズの本拠地オハイオ州シンシナティで生活を始めている。

「顔を見て、ちょっと話すくらい。(3歳と5歳の子供たちは)まだアメリカに来た実感がないんじゃないですかね。(自分が)日本に帰った方が、家族的には楽だったと思う。でも今のところ、元気そうなので安心してます」

家族の渡米と時期を同じくして、アリゾナ州のキャンプ施設が閉鎖となった。いったん帰国する選択肢もあったが、長時間の飛行機移動による感染リスクも考慮。家族が、シンシナティよりも温暖で、練習環境もあるロサンゼルスでのトレーニング継続を理解してくれたおかげで、今も汗を流せている。家族と離れ離れの新生活。みそ汁作りで、改めて実感している。

「毎日作るのって、すごくしんどいなって思います。有り難み、感じてます」

夫人への感謝は、身に染みている。32歳を迎えるシーズンでのメジャー挑戦。周囲のサポートを受け、着実に前進してきた。オープン戦では3月10日までの10試合で打率3割2分1厘の結果を残した。

「(キャンプの)後半どれだけ打てたかなって期待がある中での中断だったので、まだまだでしたね。1年目、フラットに(投手を)見られた分、どうやって対応しようか、夢中になってました。映像で見たより違った投手もいたし、そういうのは、かなり、楽しめました」

ドジャースの左腕プライスら、実績のある投手はまだ調整段階と感じた一方で、マイナー投手の実力の高さに驚いたこともあった。日本時代と比べ、実際の対戦データが少ないことで、純粋に勝負に挑めた。楽しさと同時に、徐々に実戦勘をつかみつつあった中で、開幕が延期となった。

「職を失っている人もいるだろうし、(メジャーの)開幕が遅れるなんて、苦労とかじゃないなって。それよりも、この期間をどうやって生きていくか。周りのおかげで今も、変わらずにやれている」

米国も新型コロナウイルス感染の急速な拡大で日々、緊張感が増している。それでも秋山は、多くのサポートに感謝しながら、たくましく過ごし、来る開幕に備えている。