数年前、ある球団の春季キャンプのブルペンで、通常よりも幅が広いホームベースが置かれていたことがあった。

 左右が正式サイズの17インチ(43・2センチ)より約2インチ大きいサイズ。審判はこのベースに合わせてストライクのコールを行っていた。終了後、球団関係者のいたずらだったことを明かされたが、審判は全く気が付かなかったという。友寄審判部長は、苦笑いを浮かべつつ、「我々は(ホームベースが)大きくなれば、その通りストライクは言える。基準があるわけですから」と説明した。

 試合時間の短縮が議論されるとき、必ず挙がるのはストライクゾーンの問題。外角を広めにとるようになれば、打者は手が出にくい外角で勝負される前に、追い込まれる前に打つようになる。“早打ち化”が進むことで試合時間が短くなるのでは、という意見だ。

 では、思い切ってホームベースを大きくしたら、必然的に試合時間は短くなるのはないか? こんな暴論を13年まで審判部長を務めていた井野規則委員に聞いてみると、「時短にはつながるかもしれませんけど、野球は面白くないという世界ですよね」。

 ストライクの意味は「打て」だ。打てる球だからストライク。ホームベースを大きくしたら、もともと打てない距離(範囲)がストライクになってしまう。

 審判員が練習するのは、ボール球を見極めることではないという。

 井野規則委員 我々がキャンプで練習するのはストライクのコールの練習ですから。

 審判部も、試合時間の短縮に異論はない。しかし、ストライクゾーンと時短は結び付かない、と断言している。選手が野球技術を磨くのと同じように、審判は正確にストライクをコールする技術を磨き続けている。時短を考えるとき、この点はしっかり認識していないといけない。【佐竹実】

※「野球の国から 2015」<シリーズ12>「試合時間を短縮せよ編」取材メモ