野球界を取材していると信じられないような話がたくさん出てくる。

 朝まで飲んでホームランを打った話、サイン分析やクセを盗む達人の話、球場に現れる霊の話、どの球場にも現れる熱狂的なファンの話…。たくさんの話を聞いているとハタと気付いた。ウソのような本当の話があると。

 1つ紹介する。昨年まで楽天に在籍したアンドリュー・ジョーンズ外野手(38)の逸話だ。楽天でのシーズン中、疲労を考慮され休養を与えられた試合中にフラっとブルペンに現れた。コーヒーを片手に投球練習中のある投手を5球程度じっと見つめる。次の投球モーションに入った瞬間、おもむろに口を開いた。

 「ファストボール(直球)」

 投手が投げたのは直球だった。次の投球モーションに入ると、再びつぶやいた。

 「スライダー」

 投げたのはその通り、スライダーだった。ブルペンがざわついた。グラブのしわで判断していた。毎日一緒に練習する投手陣、コーチすら気付かないクセを一瞬で見抜いたのだ。「メジャーのスーパースターはどんなクセでも見抜く」。まことしやかにささやかれた都市伝説は、確かな技術への畏怖も込められていた。

 今回は各球団担当にお願いして、比較的マイルドなモノを厳選した。泣く泣くボツになったり、NGを出されたケースもある。信じるか、信じないかはあなた次第。球界の都市伝説はまだまだある。【島根純】