「早慶戦」。東京6大学出身ではない人も耳にしたことがあるだろう。それほどに早大と慶大は、学生スポーツ界において最大のライバル関係にある。しかしこの両者、単にいがみ合っているわけではない。元早大4番で参議院議員の石井浩郎氏(51)には、その微妙な心情がうかがい知れるエピソードがある。

 「もちろん、わざと打たないなんてことはないですよ。でもあの時、加藤を歩かせて私で勝負していれば、慶応の優勝が1回増えたんじゃないかなあと、思うんです」。鮮明に覚えている、4年春の早慶戦。リーグ戦最終カードで、慶大は早大から勝ち点を取れば優勝だった。勝負が決する局面。早大の3番加藤がサヨナラの適時打を放ち、慶大のVは消滅した。

 「確か、棚ぼたで法政が優勝したと思うんですけど、気持ち的には法政よりは慶応に優勝してほしい、みたいな気持ちが早稲田ナインにはあるんですよ。早慶っていうのはライバルだけども、ある意味仲が良いんですよね」。他の4大学に優勝を持っていかれるくらいなら、早大は慶大を、慶大は早大を、心のどこかで応援している。でも実際に早慶戦で対戦するとなると、「やっぱり負けられない」という意地が勝ってしまう。

 もっとも、慶大バッテリーが3番を敬遠したところで、4番の石井氏が打てば同じ結果になっていた。「いや、自分で言うのもなんですけど、当時私、あんまり打ててなかったんで」。近鉄で入団から5年連続20本塁打を記録した名打者が、気さくに話してくれた自虐ネタ。失礼承知で、笑って聞かせていただきました。【鎌田良美】