技巧派左腕が涙、笑顔のフィナーレ-。日本ハム武田勝投手(38)が、打者1人の引退登板で11年間のプロ生活に別れを告げた。今季チーム最終戦となった9月30日ロッテ戦(札幌ドーム)に先発し、清田を3球で空振り三振。09年から4年連続2桁勝利、13年の開幕投手など左腕エースとして通算82勝。変則フォーム、愛されるキャラクターでファンを魅了し、マウンドを後にした。チームは球団最多を更新する87勝、球団史上最高勝率6割2分1厘でレギュラーシーズンを終えた。

 生きざまを見せた。武田勝が歯を食いしばって、渾身(こんしん)の直球を投げ込んだ。124キロ、128キロ、127キロ。「遅くても勝てるという存在を示せた11年間。僕の中で、真っ向勝負を続けました」。最後は、空振り三振。同僚の大谷に代表されるように、スピードボール全盛の時代。技巧派左腕として築いた通算82勝。「今季一番良かったんじゃないですか」。納得の3球で締めた。

 涙腺はマウンドに上がる前から崩壊していた。「僕なりの言い方をすれば『ずるいな』と」。試合前に外野で行った遠投中、引退を惜しむファンの声が心に突き刺さった。普段はサラリとボケをかます、ひょうきんな男も、この日ばかりは「僕も人の子なんで」。我慢できなかった。

 最後のマウンドは、代名詞のポーカーフェースを拭い去った。これまでは「プロで生き抜くには結果とイメージを守ることが大事」と、強い信念で表情も変えずに投げた。だが、通算244試合目となるこの日は違った。涙をため、鬼気迫る表情で、そして、空振り三振に打ち取ると白い歯も見せた。「11年間分が出た」という感情を見せた。マウンドで演じてきた冷静な姿は「自分なりのハッタリとウソ」と打ち明けた。

 バックネット裏には、谷元や宮西らが「11年間お疲れさまでした。優勝してやったぞ!!」と横断幕を掲げた。引退を発表した9月23日。試合前の円陣で「俺のために優勝しろ」と書いた用紙を見せて鼓舞。そのアンサーメッセージだ。スタンドでは妻陽子さん(38)も見守った。同15日の2軍戦で先発が決まると「最後の登板になるかもしれない」と伝え、見守る前で5回1失点(自責0)。静かにケジメをつけたが、後輩の奮闘で優勝も決まり、巡ってきた2度目の引退登板。「本当に後輩に恵まれた」と、感謝した。

 試合後の引退セレモニー。「僕はファイターズが大好きです。僕は北海道が大好きです。あと、1つ…」。愛し愛された後輩へ、新たなメッセージを送った。「俺のために日本一になれ」。再び、目を赤くして叫んだ。場内1周では、オカリナを吹きながら「勝コール」に応えた。涙あり、笑いあり。武田勝らしく、ユニホームを脱いだ。【木下大輔】