打撃時の写真に目を留めた。「飛距離の計算をしていく上で、初速度は重要な要素。計算します」。シャッタースピード1250分の1秒で撮影した。打球は楕円(だえん)のように見える。全長を何度も測り、実際のボールの直径などと照らし合わせ計算。時速223キロという数字が出た。

 静かな一誠寮に「223?」という声が響いた。「おかしい。そんなに速いわけがない」。繰り返しても変わらなかった。「数字に間違いはない。メジャーのトップランクでも時速200キロに届くかどうか。大谷選手のスイングならば」と結論づけた。メジャーで200キロ以上を計測した選手はおらず“最速”が証明された。

 関数電卓を手に約40分間、長い公式にデータを代入し、計算を進めた。「ここはパソコン。人間の手では計算できない」と別室に10分ほどこもった。「飛距離は137メートル、誤差はプラスマイナス15メートル。想定内の数字です」と解答を出した。天井裏に消えた打球は見つかり、野球殿堂博物館に飾られている。伝説の白球に「世界最速で飛んでいった」という勲章が付いた。【宮下敬至、和田美保】