巨人田口麗斗投手(22)が「遅球」を駆使して世界を牛耳る。侍ジャパンの先発陣の一角を任される田口は、171センチと小柄な左腕だが、直球の平均は130キロ台ながらも110キロ台の変化球を織り交ぜ、今季13勝4敗と2年連続2桁勝利を挙げた。自慢の制球力と「遅球」で、侍ジャパンの投手陣に安定感をもたらす。

 「160キロ超え!」「MAX更新!」。投手のすごさを表現する景気の良い修飾語に、田口はあまり関心を示さない。「自分はスピードが出ないと分かっています。ピッチングはスピードじゃないと思っていますから」。プロ最速は146キロだが「試合では135キロが一番多く出ている数字じゃないですかね」と苦笑交じりで自覚する。それでも今季は13個の白星を積み上げ、1人で9個も貯金をつくってみせた。

 剛速球がなくても勝てる理由は、130キロ台の「直球」を「速球」に見せる術にある。「球質、キレ、重さ、スピンとか、投球にはいろいろな要素がある。速く見せるやり方はいっぱいありますから」。直球にスライダー、カーブ、チェンジアップをどのコースにどうちりばめるかを日々、追求する。「直球の後の直球と、カーブの後の直球って、全然違う。そういう引き出しをいっぱい作っています」。緩い球を織り交ぜながら130キロ台の直球を速球に変え、宝刀スライダーの威力を増大させている。

 侍ジャパンでも自慢の「遅球」を軸に世界に挑む。「投球スタイルは変わらないです。急に球が速くなることはないので」。侍ジャパンの合宿前には巨人の秋季キャンプにも参加。6日の韓国・ハンファの練習試合では2回1失点ながら「ある程度、自分の投球フォームで投げられた」と実戦感覚を確かめた。

 昨年10月のオランダとの強化試合では、2暴投を犯すなど2回4失点。ほろ苦い侍デビューから1年後、再び日の丸のユニホームに袖を通した。稲葉ジャパンでも先発陣の軸と期待されるが、成長途上の左腕は「僕はタイトルを取ったこともないし、結果を出せたとは思っていない。侍でも練習量を落とすことなくできればと思います」と向上心は尽きない。スピードボールを投げ込む猛者たちの中で、田口がオンリーワンの輝きを放つ。【浜本卓也】