唯一にして最大のピンチで、阪神秋山拓巳投手(27)が捕手梅野をマウンドに呼んだ。両チーム無得点の8回2死一、三塁。初めて得点圏に走者を背負い、ヤクルトの1番山田哲。初球を外して1ボールとなってからだった。カウントが不利になれば、歩かせてもいい場面。静まりかえった甲子園の中心で、2人の時間が流れた。

 秋山 はっきりしないと事故するかなと思った。意思をしっかり聞いておけば、球も変わると思った。

 梅野の答えは「いくしかないぞ」。頭が整理されると、秋山は一気にトップギアに入れた。2球目にこの日それまでの最速タイ、145キロ直球でカウントを整えると、3球目はさらに最速を更新する外角高め146キロでファウル。4球目はボールとなったが、5球目の145キロで右飛に打ち取った。ほえて、グラブをたたいてガッツポーズ。「自信のある球なので。後悔しないように直球を選びました」。配球より、気持ち。全球直球でねじ伏せた。

 気迫を込め「ほんとに力を出し切りました」と振り返る8回4安打無失点。打線がつながらず、援護がなくても「チャンスの後にピンチが来る。乗りこえれば、信頼も高まる」と立ち向かった。食いしばって投げる右腕に呼応するように、秋山に代打が送られた8回の攻撃で打線が決勝点。秋山はベンチで両手を上げて喜んだ。「気持ちで勝ったと思います」と語る力投で4勝目をつかみ取った。

 勝利への執念に、金本監督もあっぱれだ。「何より秋山に勝ちがついたのは一番うれしい」と安堵(あんど)の表情を浮かべて「ただ普通に投げるのと、ああやって気持ちを込めて投げるのとでは違うんだということを、他の投手も見習ってほしいですね」と目を細めた。燃えるハートと冷静な頭脳で、今季すべてメッセンジャーが積み重ねてきた雨天中止次戦の全勝も5連勝と継続。秋山が虎を逆襲へと引っ張る。【池本泰尚】