阪神が執念の鯉倒だ。8回無死満塁で代打大山が決勝の中前適時打を放ち、9回に守護神ドリスを送り込んだが、まさかの危険球退場。不穏な空気が漂ったが、スクランブル登板したベテラン能見が炎の投球でプロ初セーブ。前日15日は敗れ、広島に優勝マジック点灯を許してしまったが、意地のカード勝ち越しだ。

 トランペットは鳴りやみ、太鼓の音もピタリと止まった。ざわつきだけが支配する不穏な雰囲気をかきわけ、能見が小走りでマウンドに向かった。1点リードの9回。守護神のドリスが会沢に頭部死球を与え、危険球退場。わずか1球の降板劇だった。急きょ、指名を受けた。肩は2度つくっていたが、1度は気持ちを切っていた。マウンドでの9球の投球練習。いつものように無表情のまま、一気にスイッチを入れた。

 能見 いろんな事を想定しながら。(中継ぎ陣には)助けてもらっている部分もすごく多いのでね。

 バントの構えの野間に対し2ボール。ただ、緊急登板を思わせたのはここまでだった。直球でバントさせず捕邪飛に。続くは代打バティスタ。先発時代には相性が良くなかったが、全開でねじ伏せた。低めの144キロ直球で空振り三振。最後は田中を投ゴロに打ち取った。12球で3人切り。プロ14年目、338試合目での初セーブだ。記念すべき試合。だが試合後も能見は笑わなかった。

 能見 (会沢の)頭に当たっての登板なのでね。喜ぶことでもないので。

 目の前の打者を抑える。それだけにこだわる。マウンドに行けばまず「守備の邪魔になる」と、ロジンバッグをプレートの左後ろに置き、視界から消す。中継ぎに転向してからは球界一美しいともいわれたワインドアップもやめた。走者がいなくてもクイックも交えながら投げる。とにかく結果だ。「球児と能見の必死な姿を見て望月もまねするようになった」と金村投手コーチ。ベテランの奮闘は中継ぎ陣の結束力までも生んでいる。

 不敗神話もつないだ。これで6回終了時点でリードしていれば38勝1分けだ。4カード連続の勝ち越しで、前日15日にマジック点灯を許した広島に牙をむいた。金本監督は「気持ちの準備があるなかでよくしのいでくれましたね。本当、能見なしではちょっとリリーフは考えられない状態です」。能見の“救い投げ”で2位ヤクルトに0・5ゲーム差と肉薄し、さあ、東京に乗り込む。【池本泰尚】

 ▼39歳2カ月の能見がプロ初セーブ。これはプロ野球史上最年長での初セーブとなった。なお90年には、ダイエーのゴセージが39歳5カ月で来日初セーブを挙げたが、メジャーでは310セーブを記録していた。