阪神の秋季キャンプが1日、高知・安芸市内で始まった。今季は01年以来、17年ぶりの最下位。屈辱的な大敗からどう立ち直るか。「最下位からの逆襲へ ○○に取り組む安芸」と題し、個々のテーマをクローズアップする。矢野燿大新監督(49)にとっては初めての1軍キャンプ指導。独自の「監督像」を打ち出し、一丸態勢を築く。実は年齢が離れた若手にニックネームをつけて距離を縮めようと試みている。新たなリーダー像がにじみ出ていた。【阪神取材班】

新指揮官の情熱は、呼び方ひとつにも表れていた。10月中旬に就任してから、幾度となく囲み取材で選手名を口にする。あるとき、こう言った。1年目を終えた島田海吏の話題だった。「海吏(かいり)やから俺は『リー』と呼んでいたんだけど…」と明かすのだ。キャンプインまでの2週間。矢野監督から次々と選手のあだ名が口を突く。フミ、スグル、モッチー…。実にさりげないが、思いも込めていた。

ユニークな「ニックネーム大作戦」からは、新たなリーダー像が浮き彫りになる。矢野監督は言う。「あんまり意識はしていないけどね。でも『監督、監督』したくないのよ。年齢が離れているのもあるしさ」。そう言って、両手を出して説明する。監督が上で、選手が下ではない-。「こうしたいのよ」。すっと差し出した両手は、同じ高さにあった。厳然たる体育会系の上下関係ではなく、共感し合える、いわばフラットに近い間柄へ。従来にはない「監督像」を思い描く。

倍以上離れた年の差の選手にもあだ名で呼びかけ、心の距離を縮めたい思いは強いのだろう。壁を作らずに寄り添う間柄を心掛け、一丸態勢を築く構えだ。この日の呼び方も親近感たっぷりだった。「だってシュンもすごい可能性を持ってるじゃん」。16年新人王高山のことだ。キャンプ初日から精力的に動いた。心を前に向かせるのも大事な役目だ。ブルペンに足を運ぶと、約30分間、練習を注視。1軍で結果が出ていない守屋に声をかけ、島本の投球も見守った。

日が傾くまで、ナインの動きを追う。安芸ドーム内でマシン打撃を行う植田には「3割! 3割!」と話しかけた。今季、非力さが出るなど打撃で苦戦。じっくりと話し込む時間もあった。矢野監督は言う。「失敗を怖がっているように感じる。まだ発展途上なのに何か打って出てやろう、ヒットを打って走者で出てやろうというよりは何か小さい打撃をして」。心の重荷を取っ払おうとしていた。指揮官はこうも続けた。

「可能性をみんな本当に秘めている。自分で自分の可能性にフタをしてしまっている部分もある。それを僕らは解放させてあげて」

17年ぶり最下位のトラウマを打破する。矢野流の心の改革が本格化してきた。