草野球プレーヤーが、球界の常識を覆すかもしれない。「相模台レイダース」の杉浦健二郎投手(21=麻溝台)だ。11月の国内独立リーグ「BCリーグ」トライアウト。硬球で150キロを投げ、関係者の度肝を抜いた。来季はBC・神奈川でプレー予定で、来秋のNPBドラフトで指名される可能性もある。高校・大学と野球部未所属でも、国内最高峰に届くのか。今もなお草野球を楽しむ杉浦の練習に潜入した。

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集合時間になった。ほのぼのした学生5人に「えーっと」と戸惑う。「今日はこれだけです」と杉浦。参加者が少ないかもと聞いてはいたものの、まさか。

登録選手は25人、みんな旧友だ。週1回ペースの活動に集まるのは平均11~12人。出欠管理はグループLINEで行い、たまに既読スルーもある。くもり時々雪予報の相模原・横山球場。「家でぬくぬくしたい人は最初から欠席です」。誰も文句は言わない。

寒いからか、練習試合相手も見つからなかったらしい。相手と折半予定の球場使用料ウン千円も、結局レイダースの部費で全額支払った。「よくあること」と気にしない。これが草野球のリアル。各自、適当に体を動かし始める。

ストレス無縁の我流で、150キロを育んだ。スマホ動画で一流投手から学び、3年間300試合以上で試行錯誤を重ねた。信じる道を進み「自分でも驚きです」という成果を手にした。ずっと感じてきたという。「好きだけど、野球だけをずっとやらせる風潮は違うんじゃ」。高校ではバドミントン部へ。野球部は選択肢にさえなかった。

あえて違う道を選んでの収穫を今、振り返る。「バドミントンは競技自体が身体能力を高めてくれました。野球は動きを固める練習が多いと思います」。

140キロを平然と捕る水島敦也さん(20)も、中学野球部の仲間だ。高校では杉浦と同じように、テニス部を選んだ。「なんか、高校野球の体質が好きじゃなくて」。それでも今、チーム個人のセイバーメトリクスまで算出するほど野球に染まる。

未知の自分を引き出してくれたバドミントン、豊富なWEB動画、「勝ちたい」より「うまくなりたい」と願える仲間との日常。元セ・リーグ首位打者、BC・神奈川の鈴木尚典監督(47)をもうならせた快速球は、日本球界の既存枠組みの対岸で生まれた。プロ野球へつながる唯一無二の「ずっと野球部員でいる」という概念や常識さえ、彼が打ち破るかもしれない。

2時間の練習が終わり、杉浦は「じゃ、ここで」とあっさり帰った。誰も理由は聞かない。想像はつくようだ。高梨好広さん(21)は「野球した後にバイト、そのままスノボ合宿とか…あいつは普通にできるんです」。強烈な体力とバイタリティーを知り、ますます進化が楽しみになる。

残った4人が並んで笑う。「肉、行きましょう」。動いた後はメシがうまい。【金子真仁】

◆杉浦健二郎(すぎうら・けんじろう)1998年(平10)4月10日、相模原市出身。中大法学部政治学科の現役3年生。草野球の試合中に自打球で眼窩(がんか)底骨折をして以来、プレー中はゴーグルを装着する。182センチ、74キロ。