#野球好きな人々へ 玄人好み、多くのプロ野球選手にも愛用される「スラッガー」のグラブ。独自の「湯もみ型付け」という職人芸で、手元に届いた時から違和感なく使用できる。久保田運動具店東京支店の松山英則さん(38)と山田佑紀さん(32)から、手入れの仕方を学んだ。

※この取材は、関係者の方々との距離などに配慮して行いました。

職人芸「湯もみ型付け」スラッガーのグラブは即戦力

   ◇   ◇

~湯もみ型付けの過程~

ばらし

(1) スラッガーのグラブの型付けは、完成形のグラブを「ばらす」ことから始める。グラブを傷つけないように加工したペンチを使用し、ひもを外していく。

加工したペンチを使い、ひもをほどいていく
加工したペンチを使い、ひもをほどいていく

(2) グラブの左半分が外し終えたら、親指部分から土手にかけて入っている「親指の芯」を抜き取る。手際のいい作業で3分半ほどで作業完了。

加工するために親指の芯が抜かれたグラブ
加工するために親指の芯が抜かれたグラブ

芯の加工

(3) グラブの操作性を高めるために、特別な加工を行う。内容は非公開。


戻し

(4) 加工の終わった親指の芯をグラブに戻す。

加工した芯を戻し、ひも通しを使い、ほどいたひもを締める
加工した芯を戻し、ひも通しを使い、ほどいたひもを締める

(5) 再びひもを通す。その際に「一番(動きに)制限がかかる」土手部分のひもは通さず、抜いたままに。「固定するとその部分だけ動かない。必死にやっていたら打球によって、いろんな形で捕る。その妨げにならないように」(山田さん)。スラッガー特有の土手部分に小さな穴が開いているのはこのため。

操作性を高めるために加工した芯を戻したグラブ。土手のひもも外しさらに使いやすくしてある
操作性を高めるために加工した芯を戻したグラブ。土手のひもも外しさらに使いやすくしてある

湯もみ型付け

(6) 熱めのお湯にグラブをくぐらせる。決まった秒数などはなく、職人の感覚。大きさ、形ともに変わらず、全く同じように見えるグラブでも、革の硬さは異なる。お湯で革の繊維を柔らかくする。

グラブを水気を取る山田佑紀さん
グラブを水気を取る山田佑紀さん

(7) お湯からグラブを上げ、強く押して水気を取る。

(8) もみほぐしながら形を整えていく。

湯通ししたグラブを揉む山田佑紀さん
湯通ししたグラブを揉む山田佑紀さん

(9) 木製のハンマーでグラブをたたき、柔らかくしていく。

湯通ししたグラブを木づちで叩く山田佑紀さん
湯通ししたグラブを木づちで叩く山田佑紀さん

(10) ボールを使い、捕球面を整える。その際に注文者の手の大きさや厚みを見て、型を付けるのがポイント。手の小さな人のグラブの場合は、浅めに手を入れなじませていく。完成後は関節がついているような仕上がりとなっている。

湯通ししたグラブをボールを押し当てて揉む山田佑紀さん
湯通ししたグラブをボールを押し当てて揉む山田佑紀さん

※(6)~(10)が最も重要な工程。


乾燥

(11) 乾燥機に入れ、数日間乾燥させる。

もみほぐしたグラブを乾燥に入れて、数日間乾かす
もみほぐしたグラブを乾燥に入れて、数日間乾かす

もみ

(12) 乾燥後のグラブを霧吹きでぬらし、革に蒸気が浸透する程度に蒸す。決まった時間はなく職人の感覚で状態を見極めて調整。

(13) (10)で付けた型に沿い、ボールなどを使いさらに柔らかくしていく。状況に応じて(11)~(13)の作業を繰り返して完成。

乾かしたグラブに霧吹きで吹き掛けて、30秒から1分間蒸す。温度は80度以上
乾かしたグラブに霧吹きで吹き掛けて、30秒から1分間蒸す。温度は80度以上

~その後の手入れ~

乾燥

(14) 使用後は風通しのいいところで乾燥させる。汗や湿気でグラブが重くなることを防ぐ。練習から帰宅後すぐにカバンから取り出し、シャワーや食事後に手入れするイメージ。ドライヤーなどの熱風を使うのは避けた方がいい。

お手入れ前のお手本に使用するグラブ
お手入れ前のお手本に使用するグラブ

グラブ磨き

(15) 専用のクリーナー、グラブワックス、タオルを準備する。

汚れを落とすの使用する「グラブ・スパイククリーナー」(左)と保革のために使用する「グラブ・ミットワックス」
汚れを落とすの使用する「グラブ・スパイククリーナー」(左)と保革のために使用する「グラブ・ミットワックス」

(16) まずはクリーナーで汚れを落とす。クリーナーは少量で汚れている部分を力強くこする。汚れが布に付着するので布のきれいなところを使いながら全体を手入れする。ポイントは汚れをこすり落とすこと。

なでるのではなく力強くこするのがコツだという
なでるのではなく力強くこするのがコツだという

(17) ワックスで保革する。力強くクリーナーでこすった部分がかさつくため、潤いを与える。クリーナーよりもさらに少量を手に取り、ハンドクリームを塗るように全体に塗り込み完了。


保管方法

(18) しっかり(16)~(17)で汚れを落とした後は、棚の上などに「平置き」で保管するのがベスト。ボールなどを巻いておくより形崩れが防げる。長期保管する場合、湿気の多い場所に置いておくと、半年でカビが生えることもあるので要注意。

(19) 使用してなくても定期的に磨き、カビの発生やほこりがたまるのを防ぐ。何よりもグラブを触れば野球がやりたくなる!

見えなかった中央の文字まで見えるほど汚れが落ちた
見えなかった中央の文字まで見えるほど汚れが落ちた

久保田運動具店

創業者の久保田信一さんが1936年(昭11)5月、野球に対する思いと、当時関西在住の野球人の推薦により大阪・曽根崎に開店。自身の野球経験を生かしながら、さまざまなオーダーに取り組み「KUBOTA SLUGGER」を築き上げた。現在も楽天浅村、DeNA大和らとアドバイザリー契約を結ぶ。

◆山田佑紀(やまだ・ゆうき)1987年(昭62)10月13日、千葉・八街市生まれ。千葉英和高から八戸大(現八戸学院大)を経て、10年入社。八戸大の1学年後輩にレッズ秋山、楽天塩見。巨人、アマチュアなどを担当。

◆松山英則(まつやま・ひでのり)1981年(昭56)5月5日、静岡・静岡市生まれ。静岡高から早大を経て04年入社。静岡高時代は3年時に元巨人高木康成らと春夏甲子園に出場。早大ではロッテ鳥谷と同期。西武担当歴17年。