ミラクル!? いや、当然の結果かもしれない。ロッテ鳥谷敬内野手(38)が、ZOZOマリンでの楽天戦で、一流選手ならではの“千里眼”を見せた。

8回裏の二塁守備、人工芝に転がる小石らしきものを拾うと、直後のピンチで打球がピンポイント通過。二ゴロで三走をくぎ付けにし、追加点を阻止した。練習試合の再開後、ヒットは出なくても、いぶし銀が随所にキラリ。プロ17年目の開幕1軍にまた近づいた。

   ◇   ◇   ◇

レジェンドには、レジェンドと呼ばれるだけの何かがある。鳥谷の“予言”が現実になった。

8回裏だ。1死三塁、ロッテは5点を追う展開ながら前進守備を敷いた。楽天藤田の打球は二ゴロに。鳥谷がさばき、三塁走者をくぎ付けに。追加点を防いだ。普通に見える1プレーには、文字通りの“布石”があった。

この回、先頭小郷のファウルフライを捕手江村が落球。二塁の鳥谷も、マウンド近くまで駆け寄っていた。帰り道、不意にかがんで何かを拾った。小石か、ゴミか。記者席からは視認できないほど、小さいものだった。

数分後、冒頭の二ゴロは、ちょうど小石らしき何かがあった場所に、まさにピンポイントでバウンドした。ゴロの行方に影響したかは分からない。ただ一流の準備が、数多くの好プレーの根拠となってきたのは間違いない。

見えないものが見えている。試合前ノックの仕上げに、鳥越コーチが捕手にフライを打つ。売り出し中のルーキー佐藤が追い、捕れそうと思ったら、先にバックネットに当たった。もう1球。佐藤は急いで戻る。本塁近くに集まる野手陣が少し盛り上がる。よくあるシーンだ。

地面に転がったままのボール。サッと拾いに駆け寄ったのは、最年長の鳥谷だった。

本来のシーズン開幕直前だった3月10日、ロッテに入団した。球団は内野手の補強を目指していた。もう1つ、大事な理由があった。井口監督が「若手の模範にもなってもらいたい。彼の練習量は現役の中でおそらく一番と思っていますし、自分のいいものを後輩に引き継いでもらいたい」と熱く語った。

鳥谷も呼応した。「常に準備を大切にしています。プロである以上、結果は重要かもしれないですけど、その結果を出すためにどうしたのかが長くやっていくためには重要だと思う」。

守備位置には誰よりも早く向かい、戻る。走者がいれば、二遊間は1球ごとに投手後ろにカバーに入るのが当然。鳥谷はいつも、有事に備えてグラブを上向きに開いている。試合前のノック、他の誰よりも目の位置が低い。16年間、黒土の甲子園で幾千もの転がりを止めてきた。

練習試合の再開後、18打数ノーヒット。Hランプはともらなくとも、チームにもたらす力は大きい。井口監督は「レアードや井上に代走を送ったときの守備固め。藤岡に代打を出したら、遊撃を守れる選手も必要」と1軍戦力としてイメージしている。2085本を積み重ねたバットも、いい音を響かせ始めている。

少し遅くなったが、今年も間もなく開幕。新天地でのプロ17年目は、どんな輝きを見せるか。鳥谷はコーチの前で少し身をかがめて、ベンチ裏へ引き揚げた。【金子真仁】