「動作解析」によるパフォーマンスの検証は、野球の世界で市民権を獲得している。解析の技術は日進月歩。動作を完全に捉える領域に手をかけている。最先端に潜入した。

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東大で人工知能(AI)を研究するメンバーが中心となって設立したベンチャー企業「ACES」と、大手広告会社、電通など4社が共同で、動画を使ったスポーツの動作解析アプリ「Deep Nine」(ディープナイン、D9)を開発した。

ビデオカメラで撮影した動画をもとに、肩や肘などの動きをAIが認識、数値化して、選手の能力向上などに活用できる。指導者の経験や感覚に頼ってきたものを、科学的に解析する狙いがある。すでにプロ野球でも一部球団が試験導入しているという。

「D9」の元になるのは、コンピューターに学習させ、人間に近い認知機能を持たせる「ディープラーニング」という技術。顔認証や自動運転など、すでに実用段階に入っている、この技術を応用し、画像から人間の身体に関する情報を取得する「姿勢推定アプリ D9」を開発した。ビデオ撮影した動画から、人間の首、肩、肘、膝など関節25カ所を認識し、これらの部位の位置や角度、動作速度を数値化する。センサーを装着したり、専用の機器を使ったりといった手間は不要で、実際の試合の全プレーから情報を得られるのが特徴だ。

野球で使う場合、関節の位置や角度、動作速度が球速や制球にどのような影響を与えるか。各部位が、どう関連して動いているか。精神的重圧を感じる場面と、そうでない場面では、関節の位置や動きに違いはあるか、といった分析が可能。これを投球や打撃の結果と突き合わせることで、選手のパフォーマンスの傾向を把握できる。

投球一覧画面から、チーム、選手、イニング、球種、撮影角度などを1球ごとのデータを絞り込み、グラフ化する。試験導入している球団では、これを専門のスタッフが、現場の指導者とともに他のデータと突き合わせて分析しているという。

開発の担当者は「人間の目や経験では捉えられない身体情報を簡単に採取できる点が大きなメリット。選手の強化だけでなく、相手選手の攻略やけが防止など、あらゆる場面への応用が期待できる」と話している。ほかに、CSのスポーツ専門チャンネル「GAORA」、プロ野球1球速報で知られる「共同通信デジタル」が開発に参加している。【秋山惣一郎】