<ヤクルト4-7阪神>◇21日◇神宮

阪神藤浪晋太郎投手(26)が692日ぶりに白星を手にした。今季5度目の先発で、ヤクルト打線を7回途中4失点に抑えた。2回には自らのバットで先制点を挙げるなど投打で勝利への執念を見せた。

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あの時、藤浪がふと見せた寂しげな表情を忘れられずにいる。

いつ頃だったか、何げない雑談を交わしていた。有名人が少しでもスキを見せる度、SNSやインターネットを通して、不特定多数から一斉に批判を受けがちな昨今。「大変な時代だ」なんて話をしていた時、遠い目で呟いた言葉が妙に記憶に残っている。

「それがたとえ1人の意見だとしても、半数がそう思っているんじゃないかって、言われた側は感じてしまうものなんですよね…」

不調が続いたここ数年、藤浪は一部から厳しい非難も受けた。まっとうで愛のある指摘だけでなく、誹謗(ひぼう)中傷に近いモノもあった。疑心暗鬼になった時期もあっただろうが、胸にくすぶっていた切ない「誤解」はこの日、解けて消えたと信じたい。

復活星の夜。勝利投手の名前がコールされると、敵地神宮は敵味方関係なく温かい拍手に包まれた。仲間もわが事のように拍手、笑顔だ。どれだけ多くの人に支えられていたのか、あらためて実感した。「すごく拍手をもらって…。本当にうれしかった」。藤浪は本来の優しい笑顔を取り戻した。【遊軍=佐井陽介】