引退試合で最後の雄姿を披露した。楽天渡辺直人内野手兼任打撃コーチ(40)は自らの希望で「1番DH」で西武戦にスタメン出場。

バットでは4打数2安打。先制のホームにヘッドスライディングで飛び込むと9回には遊撃の守備につき、遊ゴロ併殺を完成。東北に愛された男が、寒空の杜(もり)の都で走攻守に輝いた。

   ◇   ◇   ◇

感情がこみ上げた。9回。DHを解除し渡辺直が慣れ親しんだ楽天生命パークの遊撃へたどり着くと、涙が出た。「ずっとふわふわしていました」。無死一、三塁。栗山の打球が飛んできた。「ショートバウンドでゲッツーだなと。意外と冷静でした」。打球を正面でつかみ、二塁浅村へトス。遊ゴロ併殺を決め、スタンドをいっそうわかせた。

試合後のセレモニー。マイクを握ると、恩師の言葉が身に染みた。「選手として、目指していた言葉があります。1つは『一流の脇役になる』ということ。野村監督の教えです。もう1つは『うまい選手より、強い選手になる』ということです」。社会人を経てドラフト5巡目で入団。球界では決して大柄ではない体で、争いを勝ち抜くには何が必要か。走攻守、全てにおいてチームに貢献できることは何か。14年間、40歳まで選手としてユニホームを着続けるために、考え抜いた。

日々全力の末にたどり着いた引退試合。集大成を存分に見せつけた。3回2死。西武浜屋の直球を左翼線へはじき二塁打。続く小深田の左前打で、本塁へ迷いなく頭から飛び込んだ。「先制点だったので必死に走りました」。7回1死の第4打席では平井の足元を襲う中前打で4打数2安打。「バットに当たるかどうか心配でした。できすぎです」。不安は杞憂(きゆう)に終わった。

周囲の思いに応えた。試合前、三木監督から「直人が好きなように」と聞かれ「1番DH」をかなえてもらった。1巡目は2番以降の打者が自身の登場曲、ゆず「栄光の架橋」をサプライズで流し、打席に入った。「最高の球団で、最高のチームメートで、最高のファンとともに、野球ができて、本当に幸せでした。全ての出会いに感謝。14年間夢のような時間をありがとうございました」。「直人!」「直人さん!」との惜しむ声を背に、グラウンドを去った。【桑原幹久】

▽楽天鈴木大(3回に中越え適時二塁打) (渡辺)直人さんのヒットに感動しましたね。それをパワーに打ちました。直人さん、本当にすごいです。