プロ野球キャンプが本格化し、注目選手がベールを脱ぎ始めている。連続写真で分析する好評企画「解体新書」。今回は阪神のドラフト1位・佐藤輝明外野手(21=近大)に、日刊スポーツ評論家の和田一浩氏(48)が迫ります。9日の日本ハムとの練習試合で右翼ポール際に2ランを放った際の連続写真です。

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個人的に今キャンプで最も楽しみにしていたのが、阪神のドラ1ルーキー・佐藤輝のバッティングだった。パワフルな打撃は、キャンプの序盤から話題になっていた。残念なことに私が阪神のキャンプを視察したときは雨が降り、室内練習場での打撃練習。実際に打っている姿を見ることはできなかったが、練習試合でホームランを打った連続写真を元にできる限りの打撃を分析してみよう。

構えている<1>で特徴的なのが、グリップの位置。目線よりやや上の位置にグリップがあり「ボールを上からたたこう」という意識がうかがえる。私も現役時代はグリップの位置が高かったタイプ。グリップの位置を高くして上からボールをたたければ、打球にスピンを加えやすく、飛距離が伸びる。その一方で気を付けなければいけないのは、右足を踏み込んでいく際、右足と一緒に頭とグリップが出ていきやすくなる点。こうなると下半身と上半身が一緒に出てしまい、打ちにいくまでの“間”がなくなってしまう。

しかし佐藤輝は、足を上げていく<2>から踏み出していく<4>まで、グリップと頭が後方の位置に残っていて我慢できている。簡単に説明すると、上半身の動きを小さく後方に残すようにして、下半身を大きく動かして「割り」を作るタイプ。理想は上半身と下半身を逆の方向に動かすようにして「割り」を作った方が柔らかく打てるのだが、これだけ大きな「割り」が作れれば問題ない。逆に下半身の動きを小さくし、上半身を大きく使って「割り」を作るタイプもいるように、自分に合ったやり方でいいだろう。

大きな「割り」でトップの形を作った後、ここから<5>で打ちにいき、<6>では内角低めのカーブかスライダーに対応するため、左肘を体の横につけている。このように左肘を使うと、球速の遅い変化球に対し、ボールとの距離が取れる。そして<7>ではすくい上げるような軌道で打ちにいける。見事なのはインパクトの<8>から<9>と<10>にかけてのフォロースルー。手首が返り、バットのヘッドがこねるような軌道にならないようにして、大きなフォロースルーが取れている。だから右翼ポール際へのホームランにできる。並の打者なら一ゴロか一塁へのファウルになっていただろう。

ただ、変化球に対しては理にかなったスイングだが、まだ分からない疑問点もある。<6>と<7>では球速の遅い変化球に対し、左肘を体の横に付けてボールとの距離を取っているが、この部分が速い真っすぐに対しては邪魔な動きになる。左肘は体の前に入れないと差し込まれやすくなるし、左膝が内側に折れるタイミングも少しだけ早い。他の打席も動画で見させてもらったが、真っすぐを打つときでも左肘が体の前に入らず、左膝が折れるのが早い。ボールを引きつけて打てる半面、やや体の開きが早く、ミートゾーンが短い印象が見受けられた。今後は速い真っすぐに対し、左肘を体の前に入れて打てるかどうかが課題になると思う。

グラウンドで見た佐藤輝の姿は、プロで何年も飯を食っているような体つきをしている。天性のパワーヒッターは、多少差し込まれてもボールを押し込んで飛ばしていけるという感覚を持っている。佐藤輝の場合、その感覚が規格外のスケールで、多少の弱点はパワーでカバーできる可能性がある。しばらくはあれこれ考えず、自分の持ち味を発揮することだけに集中した方がいい。度肝を抜くようなホームランを見せてもらいたい。(日刊スポーツ評論家)