今年の新人王争いは白熱しそうだ。DeNA牧秀悟内野手(23)はここまで打率3割以上をキープし6本塁打。チームが苦境の中、外国人がいなかった打線を支えた。「解体新書」で和田一浩氏(48=日刊スポーツ評論家)が、その打撃を分析。阪神佐藤輝、広島栗林らと、セの新人王を競える資質を見てとった。

   ◇   ◇   ◇

野球チームに所属してプレーした人なら、1度ぐらいは「コンパクトに打て」と指導されたことがあるだろう。思い切りバットを振って空振りすると、こうした指導を受けやすいが「コンパクトに振る」という意味を履き違えないでほしい。フルスイングを否定しているのではない。コンパクトに打つ技術というのは、思い切りのいいフルスイングをするために必要な技術だと考えてもらいたい。ルーキーでありながら開幕当初は3番を務め、活躍を続けているDeNA牧は、コンパクトでありながらパワフルに打つための“お手本”になるスイングをしている。

178センチ、93キロの体形通り、打席でもドッシリしている。(1)では右足に体重を残しているが、回転する軸は体の中心にある。大きく左足を上げた(2)でも、重心はブレていない。体幹が強く、バランス感覚も優れているのだろう。これだけしっかり足を上げても重心がブレないから、コンパクトなスイングが可能になる。

(3)で左足を踏み込んでいくが、グリップの位置をそのまま後方に残すような形で「割り」を作っている。キャンプで見た時は、踏み込んでいく左足と一緒にグリップの位置も前に出ていたが修正できている。だから(4)のような、力強いトップの形が作れる。

(5)と(6)で打ちにいくのだが、この時、右の股関節にたまっている力が一瞬だけ、ほどけるのが早い。それでも十分、許容範囲に収まっているし、上半身の使い方は素晴らしい。特に(6)では右肘が体の前に入っていて、左肘も曲がったまま使えている。

両肘を窮屈な形で使えるから、(7)でもグリップの位置が体から離れずに使える。この連続写真は真ん中の149キロの真っすぐを右翼線に二塁打したもの。逆方向に打っても強い打球が打てるのは、グリップが体から離れずに打ちにいけるから、インパクトで後ろにある右腕で押し込んでいける。打ちにいった(5)とインパクト直前の(7)で、頭の位置が動いていないのが分かるだろう。軸がブレず、グリップの位置も体から離れないから、コンパクトで鋭い軸回転が可能になる。

(8)ではアゴを引くような形で、スイング軌道がアッパーになりすぎないように押さえ込んでいる。ここで体がそっくり返るような形でアッパースイングになりすぎると「あおり打ち」になり、打球にドライブがかかって飛距離が出ない。牧が逆方向にホームランを打てるのも、鋭い軸回転に加え、飛距離の出るスイング軌道で打てる技術を持っているからだ。

(9)を見ても、右翼線に飛んだ打球方向にしっかりと顔が向いている。(10)でもっと体を回していれば、(11)と(12)で慌てて走りだすような動きにはならないが、一生懸命に全力でプレーしている姿は好感が持てる。この姿勢を続けてもらいたい。

よく勘違いされがちだが「コンパクトに打つ」という打撃は、決して力を抜いて大振りしないということではない。体の軸をしっかりさせ、鋭い回転で打つこと。スイングの中心部分がコンパクトに回れれば、それだけ鋭く、バットのヘッドにまで強い力を伝えるスイングができる。言い換えると強靱(きょうじん)な体幹が必要で、両腕を曲げて体の内側からバットを出す技術も必要。牧のスイングはルーキーとは思えないほど完成度が高く、今後も疲れから打撃フォームを崩さなければ、かなりの成績を残せると思う。あくまでも現時点の評価だが、打撃技術のレベルは阪神の佐藤輝より数段上だろう。今から新人王争いが、楽しみになってきた。(日刊スポーツ評論家)