DeNAは交流戦前、勝率が2割9分3厘(12勝29敗6分け)しかなかったが、交流戦は6割(9勝6敗3分け)と2倍以上に増えた。なぜ、突如として強くなったのか。「DeNA躍進の理由」と題し、2回に分けてお届けする。今回は最終回で「田代コーチのベンチ入り」。

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DeNAの打撃コーチは、交流戦を機にベンチ入りメンバーが替わった。それまでは坪井智哉コーチ(47)と嶋村一輝コーチ(39)が全試合ベンチ入りしていた。だが、交流戦から田代富雄巡回コーチ(66)が全試合ベンチに入り、坪井コーチと嶋村コーチはカードごとに入れ替わった。

打線が劇的に打ち始めた。交流戦以前は、チーム打率2割3分7厘(リーグ5位)、同本塁打37(同4位)、162得点(同4位)だった。交流戦はチーム打率2割9分7厘(12球団1位)同本塁打24(同1位タイ)、91得点(同2位)。パ・リーグの本拠地ではDH制が採用されているとはいえ、他球団との比較でもまったく違う順位が並んだ。

現役時代、大洋一筋で通算278本塁打の田代コーチは、名伯楽として知られる。村田修一、筒香嘉智ら門下生は数知れず。豪快な人柄にほれこむ選手は多く、なおかつ楽天、巨人にも手腕を買われて在籍したことがある。

田代コーチのベンチ入りを機に、打棒がよみがえった選手がいた。チーム最年長、33歳のベテラン大和だ。交流戦直前まで2番でスタメン出場しており、打率は2割ちょうどだった。交流戦から8番に入り、打率は3割6厘、2本塁打。打点14はオースティンに次いで、宮崎敏郎と並ぶチーム2位で12球団全体でも8位タイ。得点圏打率は6割ちょうど(15打数9安打)で、12球団で3位(規定打席以上)だった。

交流戦の初戦、5月25日オリックス1回戦(横浜)で好投手の山岡から先制3ランを放った。これが今季1号だった。同28日の楽天戦(楽天生命パーク)では涌井から逆転の2号3ラン。またも好投手を打った。

6月3日ソフトバンク戦(横浜)では決勝の勝ち越し二塁打。お立ち台で「田代さんのおかげです。田代さんが一番喜んでくれたので良かった」と持ち前のバリトンボイスをはずませた。

活躍は続いた。6月6日のロッテ戦(横浜)では守護神益田から左越えのサヨナラ二塁打。思わず「バットを投げちゃいました」という喜びようだった。この勝利で交流戦は首位タイに浮上。今季初のサヨナラ勝ちで、五輪前では最後となる横浜スタジアムでの試合を劇的に彩った。

大和が、田代コーチとの関係性について語った。「お父さんみたいな感じ。基本的に野球の話だが、野球以外の話もする。常に自分が乗せられている」。チーム最年長選手とチーム最年長コーチ。年齢はちょうど2倍だが、親子のように波長が合うのだ。

三浦監督は、田代コーチのベンチ入り効果を実感していた。「田代さんだけじゃないけど、新しい視点でアドバイスと声掛けをしてもらっている。田代さんの良さをベンチで出してもらっている。経験豊富な方。選手への声掛けとかですね」。器の大きい、おおらかな指導が、明るい雰囲気をつくり出す。打線爆発の起爆剤となり、躍進につながった。(終わり)【斎藤直樹】