矢野阪神が土壇場で底力を見せた。3点を追う9回2死一塁で、今季3度目のスタメン落ちとなった佐藤輝明内野手(22)が代打で登場。中前に代打初安打を放つと、ここから怒濤(どとう)の5連打。最後は大山悠輔内野手(26)がサヨナラ打を締めた。貧打から抜け出しての激勝に、矢野燿大監督(52)は思わず涙ぐんだ。きょう13日のDeNA戦で13年ぶりの首位ターンを決める。

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試合を決めた4番の背中をめがけて、夢中で走った。ナインから注がれるウオーターシャワーの中、佐藤輝は主将のユニホームにたどり着き、ギュッと抱きついた。午後9時10分。甲子園にメガホン音が地鳴りのように響いた。

眠れる虎を代打佐藤輝が目覚めさせた。9回2死一塁で三嶋のフォークを捉えた。「もう…無我夢中で…。しっかり食らいついてシフトの間を抜けてくれてよかったです」。二塁ベース付近に寄っていた遊撃大和の左を破った。

7日ヤクルト戦(神宮)で20号を放ってから、直近4試合で13打数1安打。そしてこの日プロ3度目のスタメン落ち。9回は梅野が右前打で出塁してから、ようやくネクストバッタースサークルに現れた。3者凡退で終わっていれば…。プロ初の欠場で終わる可能性すらあったが、代打初安打で甲子園の空気を変え、その後の4連続適時打を導いた。

前日11日には巨人に1安打完封負けし打線は冷え切っていた。この日も8回まで0行進で「零敗ムード」が漂っていたが、土壇場で6安打を集め4得点。21イニングぶりの得点、適時打にいたっては28イニングぶりに飛び出した。猛攻を導いたルーキーは「(勝ちにつながったことが)一番大きいですね。価値ある1本になったと思います」と胸を張った。

試合後のインタビューで矢野監督は、こみ上げるものを抑えられなかった。「えー…、感動しています。苦しかったですけどね。本当に1人1人が…。ちょっと待ってください…」。約5秒の沈黙の後、「全員の気持ちだと思います」と言った。

「『みんなでつないで』でしか、この試合勝てないんで。ベンチでも全員、諦めることなくやっていた。1年の中でいろいろありますけど、勝てない中でもやり切ってくれていたのはすごくうれしかった」

2位巨人に連敗してからの1勝の価値は、指揮官の涙が物語る。引き分け以上で前半戦首位ターンが決まる13日へ「つなげないとね。つながるだけの価値のある勝ち方ができたと思う」と力を込めた。ウル虎の夏にふさわしいサヨナラ劇。この勢いを残り2戦にぶつける。【中野椋】

▼阪神は13日にも前半戦の首位通過が決まる。DeNA戦に○または△なら、巨人の結果にかかわらず決定。仮に阪神●でも巨人も●なら首位ターンとなる。阪神が前半戦を1位で終えれば、08年以来13年ぶり。

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