巨人内海哲也投手(32)が、魂の投球で元チームメートにエールを送った。7日、川崎市のジャイアンツ球場で、巨人から戦力外通告を受け明日9日にトライアウトを受ける井野卓捕手(30)加治前竜一外野手(29)の自主トレに飛び入り参加。約30分間、打撃投手を務めた。愛情あふれる粋な計らいに、加治前、井野は胸を熱くしていた。チームリーダーが2人の不安な背中をそっと押した。

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午前9時、ジャイアンツ球場の室内練習場で黙々とボールを投げる男がいた。内海だった。人もまばらな全体練習30分前。内海が投げるボールを、加治前と井野が打ち返していた。10月25日に巨人から戦力外通告を受けた2人は、明日9日のトライアウトに向けて無休で自主トレを続けてきた。再出発に懸ける2人の思いにこたえるため、内海は打撃投手を買って出た。

「今日は壊れるまで投げるからな ! 」。そう言って投げ始めた。直球だけでなく内角を突くスライダー、変幻自在のチェンジアップ、そしてツーシーム。全球種を惜しげもなく放った。シーズンを終えたばかりのベテランは、投球練習をする時期ではない。秋季キャンプも打ち上げ、オフの時期。だが、「少しでも実戦感覚を積んでほしいというか、感覚を研ぎ澄ませてくれれば」。約15メートルの距離で、1球、1球を丁寧に投げ込んだ。

きっかけは前日6日だった。午前8時にアップを開始すると、既にノック中の2人の姿が目に入った。契約を解除された今、練習相手は互いの存在しかない。井野の不慣れな外野ノックが、ランニング中の足元に転がってきた。「頑張れよ」。そう声を掛けたが、言葉だけでは足りないような気がした。何か自分にできることはないか。「オレが投げるよ」と約束した。本来は別の場所で練習予定だったが、2人との合同練習を優先した。

練習後は、あえて声は掛けなかった。もう言葉はいらなかった。「同じチームだった。力になりたくて。合格へ足しになれば。何とか頑張って欲しい」と言い残して球場を後にした。加治前は「何億ももらっている人が戦力外の俺たちに投げてくれる。すごいよ」。井野は「涙腺弱ってきたのかな」と目元を赤くした。内海の熱き思いが込められた30分間だった。【栗田尚樹】

☆内海のナイスガイ伝説

◆配膳係 恒例の元日自主トレ後、母が店主を務める京都・京田辺市のお好み焼き店に報道陣を招待。「焼けましたよ~」「マヨネーズはこちらです」と、敏腕ウエーターに変身して食事をふるまった。

◆クリーン活動 中継ぎのころ、毎試合後にブルペンのゴミを拾い、きれいに片付けてから引き揚げていた。スタッフは「初めて見たとき、感動した。後にも先にも彼だけ」。

◆盛り上げ役 松本哲の結婚式で、新婦友人がダンスを披露。飛び入り、即興で加わり大団円に。

◆離れても オリックスに移籍した東野と夏に再会。気落ちしている姿に「精いっぱいやろうや。今、野球ができてるオレたちは幸せなんだ」。東野も今回のトライアウトに挑む。

◆敬称略 1軍に昇格したての若手や移籍組は、ニックネームをつけたり、下の名前で呼んだりする。キャンプ1軍スタートの新人は率先して食事に誘う。「変に気を使ったり、緊張したりしないように」。