阪神2軍が18連勝とファーム記録を更新し続ける中、正捕手として著しい成長を見せているのが、ドラフト4位栄枝裕貴(23)だ。右肋骨(ろっこつ)の疲労骨折から実戦復帰後、先発マスクをかぶった試合は19勝2敗4分けと圧倒的な勝率を誇る。捕手としての工夫から同期入団の佐藤輝の素顔まで、インタビューでたっぷりと語った。【取材=前山慎治】

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6月9日に実戦復帰後、栄枝が捕手として先発した試合は同12日ソフトバンク戦、7月6日同戦(いずれも甲子園)の2試合しか負けていない。

「負けた2試合は、はっきり覚えてるんです。1戦目は復帰してから初めて先発マスクかぶった試合で、出るだけでいっぱいいっぱい。2戦目は先発がエドワーズ。久しぶりの先発っていうピッチャーに対して、自分がうまく引っ張れなかった。それを糧に守備練習だったりやってきた。そういうのが良い結果につながって、自信持ててやれていると思います」

3月末に右肋骨(ろっこつ)を疲労骨折。悔しさを押し殺し、やるべきことに励んだ。

「キャンプ1軍に帯同して、覚えることがいっぱいで、気持ち的にも余裕がなかった。けがしたことはあまりよくないですけど、プラスに捉えて。いろんな1軍、ファームの試合を見て、『この投手はこういう組立て方なんや』と学べて。けがして復帰してからちょっとずつ手応えを感じるようになって、自分の中でまだ100点ではないですけど、意外にできてるかなというのはあります」

投手の特徴を書き込んだノートを3冊使っている。そこに成長の秘密があるのか。

「1冊はピッチャーの特徴やその人のサインを片っ端から書き込んで、組むときに思い出してやれるように。もう1冊はチームのこととかサインとか。その2冊は常にベンチで見直して、メモ取ったりとか。もう1冊はその日の振り返り。帰った時に試合見直して、引き出しになってますね。打たれたところを中心に書いてます」

リード面で意識するのは「1軍基準」。先輩捕手のリードに目を光らせる。

「僕らがやっているのってファーム。こうやったら確実に抑えられるけど、この抑え方だけじゃ1軍ではやっていけないと(いう場面もある)。例えば、ストレートを待っているところに、わざとストレートを投げてファウルを稼いだりとかも必要。だいぶ前の試合で、秋山さんと(梅野が)バッテリーの時に、アウトローに直球を4球続けて追い込んで。秋山さんはフォークとかカーブとかを持ってるんで、僕もそうするんかなと思ったら、インハイのストレートで空振り三振を取ったんですよ。そういうオッて思わされたらすぐノートに書いたりしています」

捕手として際立つのは献身性だ。

「一番は組んでいるピッチャーに1軍に上がって活躍してもらいたい。村上とか上に上がって、打たれましたけど。僕は選手で自分が頑張らないといけないのに、上がってくれるのがすごくうれしくて。そうやってできていることが、本当にキャッチャーやっていて良かったなというのはあります」

直近では小川が1軍でプロ初勝利。2軍では先発に挑戦し四苦八苦する右腕を支えてきた。

「下にいるときは『あかん、もうだめかもしれない』とか(小川が)言ったりしていた時期もあったりしたんですけど。上でバチバチ抑えて、勝利の方程式みたいになって。次会ったら『何言ってるんですか』と言いたくなりましたね。『めっちゃ楽しそうにやってますね』って」

捕手らしく、ルーキーの間でも“扇の要”として会話の潤滑油となっているという。

「テルが1軍にいた時は、なかなか(寮内で)すれ違う時間とかはないんですけど、いつも僕が『調子どうや?』とか言って、『疲れてるなあ』と返してきたりとか。中野さんも、あの人は常に打っているので『中野さん昨日ナイスバッティングですね』とか言ったら、『いやいやいやいや』みたいな。あと将司(伊藤)さんにも『ナイスピッチングです』とか言ったら、『ありがとう』みたいな。それくらいしか会話はできないんですけど、僕もやっぱり気になるので、聞いたりしてますね」

佐藤輝が2軍調整中。栄枝自身も目指すは1軍だが、ひとまずは同期ドラ1の心のよりどころとなり、復活をサポートする。

「だいたい僕が『今日調子どうよ?』みたいなこと言って。『もう(感覚を)思い出したん?』とか。12日はちょっと打てなくて落ち込んでいたんですけど、やっぱり上にいる選手だと思うので、頑張ってほしいです」

◆栄枝裕貴(さかえだ・ゆうき)1998年(平10)5月16日、高知市生まれ。高知中では軟式野球で全国制覇を経験。高知高で甲子園出場経験はなし。立命大では1年秋からベンチ入りし、3年時には大学日本代表候補合宿に参加。20年ドラフト4位で阪神に入団。今季1軍出場はなし。ウエスタン・リーグでは40試合に出場、打率2割5分8厘、1本塁打、15打点。背番号39。180センチ、81キロ。右投げ右打ち。