日本ハム加藤貴之投手(29)が悲願のプロ初完投初完封勝利を挙げた。

楽天25回戦(楽天生命パーク)で3安打無四球、わずか103球で9回を投げ切って5勝目を手にした。先発106試合目での初完投はプロ野球史上最遅の珍記録。6年目で自身初の規定投球回にも達したサプライズな快投を、ショートスターター起用などで投手としての幅を広げてくれた、今季限りで退任する栗山英樹監督(60)に贈った。

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ついに、加藤が最後まで投げ切った。「いつかは完投したい」と言っていた左腕は9回2死、浅村を遊ゴロに打ち取っても派手なリアクションはない。「意識はしてましたけど、変わらす平常心で投げられたかなと思います」。野手がマウンドへ駆け寄り、ようやく笑みがあふれた。エアタッチの列へ向かうと、満面の笑みの栗山監督がいた。右手でグータッチすると、軽く抱擁。互いに、いろんな思いが交錯していた。

加藤 いろんなことをやっていただいて、僕の長所を生かしてくれた監督なので。最後くらい、自分らしいというか、こういうピッチングができることを見せられてよかった。

栗山監督 カトちゃん、完投は初めてなんだよね。失礼だったか。オレが代えすぎ? こうやって投げられることも分かっているんだけど、それ(ショートスターター)は加藤しかできなかったこと。感謝しているし、信頼もしている。ナイスピッチングだった。

19年に導入された、先発が3回程度を目安に交代する「ショートスターター」戦術の中心の1人が加藤だった。立ち上がりを苦にしないという長所を生かすための策で、栗山監督は「加藤の良さを何とか引き出そうと思った」と振り返る。

難役に戸惑いながらも必死に投げてきた加藤は、指揮官の退任が発表された後に「いろんな使い方をして悪かった」という言葉をかけられたという。

加藤 自分の長所を監督が見つけてくれて、それに当てはまっただけ。本当に僕は監督の下で野球ができてよかったなと思います。

今季は先発としてシーズンを通して投げ切り、勝ち星こそ、この日で5勝目だが、投球回は145回となって目標の規定投球回に初めて到達。「最後の最後に、いいピッチングができたんじゃないかな」と、信じて使い続けてくれた栗山監督へ最高の恩返しとなった。【木下大輔】