野球漫画「ドカベン」「あぶさん」などで人気を集めた漫画家の水島新司さんが10日、肺炎のため東京都内の病院で死去した。82歳だった。
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南海ホークスを愛し、パ・リーグが好きで、プロ野球が好きだった。水島先生が涙に暮れる姿に触れたのは、その南海がダイエーに買収され、大阪球場のラストゲームのことだ。
こよなく愛した球団がお金持ちの裕福な企業に引き取られていくのが、たまらなく悲しかったのだろう。あいさつに立った水島先生は超満員のスタンドに向かって絶叫するのだった。
「きょうのこの1勝で南海ファンは今までの悔しい思いをすっかり忘れました。さようなら!」
名門球団の歴史が幕を閉じたのは、1988年10月15日の近鉄戦。最後の番記者として、球場入りした水島先生を見つけてサインをお願いすると、即席にもかかわらずしんみりと応じていただいた。
セレモニーが終わって監督の杉浦忠さん、藤原満さん、門田博光さんらが引き揚げてくるのをベンチ前に待った水島先生がずっと大泣きしていたのは印象深い光景だった。
かつては巨人中心の時代で、特にパ・リーグは観客動員が伸び悩み、赤字を抱える球団経営が続いた。その窮状にも水島先生はプロ野球ドラマにこだわってファンを引き寄せた。
漫画「ドカベン」「あぶさん」などのように、個性あふれたキャラクターをモデルに描き、人気を博したのは、将来のプロ野球のあるべき姿を示唆した道しるべだったようにも思う。
20年に候補に挙がった野球殿堂入りを辞退したのは残念だった。体調を崩してからグラウンドで見かけなくなったが、いかにプロ野球界の立ち位置を見ていたのだろう。
日刊スポーツに掲載する色紙に書いたのは「どこへ行っても、野球は野球 南海ホークス景浦安武(あぶさん)」という惜別の辞。野球を世に広めた、まさに巨匠だった。【編集委員・寺尾博和】