阪神大山悠輔内野手(27)が16日、背番号3の進化を追う日刊スポーツ独自企画「比べるのは昨日の自分」で交流戦2冠の舞台裏を語り尽くした。今テーマは「覚醒の秘密」。不振から抜け出したきっかけは? 2年ぶり犠打への本音は? 上位浮上への考え方は? 今日17日の甲子園DeNA戦からリーグ戦再開。3位広島を2ゲーム差で追う虎、大逆襲のキーマンが勢いを加速させる。【取材・構成=佐井陽介】

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二人三脚の旅路はもう3年目に入った。大山悠輔は今、あらためて新井良太1軍打撃コーチのありがたみを実感している。

「自分1人ではどうしようもできないことがある。自分の感覚が周りから見たら違う時もある。常に見てくれている人の何気ない一言ってすごく大事だなと感じます。良太さんがいろんな角度から見てくれている。まだまだ頼ることがあるのかなと思っています」

交流戦は6月3日の日本ハム戦で1試合3発を決めるなど打率3割1分8厘と急上昇。7本塁打、21打点で2冠に輝き、虎をV字回復に導いた。実は新井コーチと対話を繰り返した末の覚醒だったのだという。

「自分が悪くなった時にこうなっている、というところを良太さんと話して。『受けない』ようにしよう、となったんです。自分は受けてしまうと悪い方向に行ってしまうタイプなので。1番大事なのはタイミング。なるべく自分主導で自分の『間』に持っていけるようにしています」

20年開幕直後から新井コーチと全体練習前の打撃確認をスタート。今もホーム、ビジターを問わず続けている。現在の好調も、2人きりの空間が生み出した産物らしい。背番号3は交流戦に入り、左足で小刻みにリズムを取りながら構えるようになった。試行錯誤の末、自らタイミングを仕掛ける形がハマったようだ。

「これは人それぞれ感覚が違うと思いますけど、僕の場合は『静から動』よりも『動から動』の方が入りやすいんです。もちろん、かといって動きすぎたらおかしくなる部分もあるので、そこはしっかり自分で感覚をつかみながらになりますけど。今のところは『動から動』でいい感覚を持てるようになっています」

振り返れば、苦悩の期間は決して短くなかった。4月下旬に左膝を負傷。本人はかたくなに「絶好調です」と言い訳を拒み続けたが、打率2割台前半から抜け出せない時期もあった。1試合3本塁打を放つ前日の2日西武戦では2点差に迫られた直後の7回無死一、二塁、2年ぶりの犠打も指令されている。

「う~ん…あそこで打たせてもらえなかった悔しさはもちろんありました。でも、実は一、二塁になった時点で『もしかしたら犠打もあるな』と予感していて、驚くことはなかったんです。自分の状態は自分が1番分かっていますから。だから、サインが出た後はバントに集中できました」

1球で犠打を決め、糸原健斗の2点打をお膳立て。何より最終的に勝利をもぎ取れたことが「一番良かった」と強調する。

「流れのスポーツなので、あそこで一発でバントを決められた喜びはありました。点数が入ってチームが勝てたうれしさもありました。個人競技であれば悔しさしかなかったかもしれないけど、僕たちはチームとして戦っている。あの後、糸原さんがしぶといヒットで点数を入れてくれたことで僕自身も報われました」

ただ、佐藤輝明や近本光司と同様にチームの浮沈を背負う立場を考えれば、犠打を命じられる自分に満足するわけにもいかない。

「一番大事なことはチームの勝利。もしバントのサインが出たら一発で決められるように、これからもしっかり準備したい。その上で、ああいった場面で打つ方が確率が高いと思われるためには、自分が打ち続けるしかない。そこはもう自分次第だと思っています」

人一倍強い主砲としての責任感もまた、翌日以降の快音連発を後押ししたのかもしれない。

今季、大山は相手バッテリーを駆け引きを重ねる場面が目立つ。狙い球が来るまでじっくり我慢して1球で仕留める。自身が課題にあげていた「配球を読む力」の進化も印象深い。

「この投手はこんな特徴があるとか、3連戦の中でも1、2戦目がこうだったから次はこう来るだろうとか、3戦目にこうしたいからまずはこう行こうかとか…。スコアラーさんとも話しながら、すごく考えるようになりました。もちろん正解はないし、自分はまだまだ。配球面を考えすぎて受けすぎてしまう時もある。割り切っていく時は思い切っていく必要もあるのかなとも思いますけど、少しずつできるようになっているかなとは思います」

今では負傷していた左膝の状態も「良くなっているのは間違いない」と明かせるまでになった。心技体すべてが整い始めた今、タイガース逆襲のシンボルとしての期待値はいやが応でも高まる。

チームは開幕9連敗という泥沼からはい上がり、交流戦は12勝6敗で12球団2位。セ・リーグ最下位独走状態から抜け出し、3位広島に2ゲーム差の4位でリーグ再開試合となる17日DeNA戦を迎える。

「正直、開幕直後はどうしても勝てない中、気持ちが沈んだり落ちてしまう時期もありました。それでも、みんなで頑張ろうという形でしっかりやってきたから今がある。もちろん最後に優勝チームが決まるまで、優勝という気持ちは持ち続けてやらないといけない。その中でも、まずは目の前の1試合1試合に集中していくことが大事だと、僕は考えます。今は4位だから、まずは3位。3位になれば、次は2位。2位になれば1位を目指す。目の前のことを目標にしていけば、おのずと良い結果がついてきてくれると信じて、1つずつ勝ちを積み重ねていけるように頑張ります」