朗らかな表情ながら、胸の内は燃えに燃えていた。西武中熊大智捕手(26)が15日、西武・所沢の球団施設で自主トレを行った。連日、マシン打撃で快音を響かせ続けている。

森友哉捕手(27)がオリックスへFA移籍し、キャンプインから激しい正捕手争いが繰り広げられる。1軍出場は通算1試合のみ。とはいえ、いや、だからこそ。中熊が熱い。

「森さんが出て、チャンスは自分でつかんでいかないといけないと思っているので。このオフからしっかり、やりこんで。今年1年で人生変えてやる。そんな気持ちです。もう今、メラメラしてます。火の国です」

熊本育ちの肥後もっこすは信念を曲げずに、この1年を戦う覚悟でいる。

折れかけた。徳山大から18年育成ドラフト3位で入団したが、3年目のオフになっても支配下登録がなかった。球団から翌年の育成契約の打診があった。

「いろいろ考えました。辞めたほうがいいのかな…というか、辞めようと思ってて。高卒3年と大卒3年じゃ全然違うと思うんで。5日間くらい返事を待って下さいってお願いして」

家族、友人、担当スカウト、恩師。10人近くに相談し、あと1年間だけ戦うと決断した。「(育成)4年目はもう、無心でしたね。3年目もでしたけど」。4年目の7月、球団に呼ばれた。「長いズボンで、通勤の私服で来てって呼ばれて」。うれしさよりも「ホッとしました」という吉報が、ようやく届いた。

7月20日、ロッテ戦(ZOZOマリン)で代打デビューした。「3年半かかって、打席にネクストから向かっている時に、やっと来たなって感じでした」。

相手は魔球的なスライダーを投じる、ロッテ東條大樹投手(31)だった。右サイド対左の代打。アピールにはもってこいの場面だ。しかし追い込まれてからシンカーをケアしていると、意外にも懐にスライダーを差し込んできた。どん詰まりの三邪飛に。「シュッと来て、ああいう形になっちゃって。僕の未熟さですけど、悔しかったです。めちゃくちゃ」。

悔しさを晴らしたい。森の退団は、同じ左打者で打撃を買われている中熊にとっては、大きなチャンスになった。九州学院出身で、ヤクルト村上宗隆内野手(22)は中熊からみて3学年後輩にあたる。

「村上みたいに…」

そうつぶやいた。1つ、やりたいことがある。熊本・菊陽町の出身。山口の徳山大へ通う16年春、熊本地震が発生した。「大学の練習終わりに知りました。隣町の益城町が震源で。親に連絡がつかなくて、やばいと焦って。とにかく無事でいてくれって」。家族は無事だったものの、地元を元気づけたい思いが深まるきっかけになった。

「プロに入って、立場もあるので…熊本を盛り上げたい気持ちは、そういう思いは出てきています。村上みたいに、1軍で僕が出て、もうちょっとこう、名前が売れたりしたらやりたいなと思っています」

入れ替わりの後輩は、ホームランという華で、若くして球史に名を刻んだ。同じ左打者でもタイプは違うと自覚する。「率と打点です。チャンスに強い打者がいいです。とにかくチャンスに強い打者、昔から僕、めっちゃ好きです」。

のどかな登場曲「ぼくはくま」を今年こそ、何度も響かせてファンをいやしたい。獅子の熊に、人生最大のチャンスが巡ってきた。【金子真仁】

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