ロッテ山口航輝外野手(22)は「すぐ再会しましたね」と笑った。ロッテ担当だった昨年12月に、年明けから西武担当に異動することを報告した。1カ月少々ぶりの、お久しぶり。体は大きくなっている。

「きつかったっす。やばいっす」

相当走り込んだようだ。このオフは憧れのスラッガー、西武山川穂高内野手(31)に弟子入り。福岡、沖縄と常にそばで多くを吸収してきた。「山川さんは考えていることがもう、深すぎて。すごいっす」。懸命に背中を追っている。

そんな山口が私(金子)に、背中越しに声を掛けてきた。

「金子さん、俳句…封印します」

目元に笑みを浮かべながら、口元はしっかり引き締まっていた。

21年1月、石垣島でのキャンプイン直前のこと。中学時代に伊藤園主催「おーいお茶 新俳句大賞」で入選したことを知った私は、山口への囲み取材の最後に「今季への思いを五七五でお願いします」とむちゃぶりをした。「まじっすか~!?」と言いながら後日、作品を披露してくれた。

以後、時折「何かないっすか? ヒントないっすか?」と目や声で訴えられることもありつつ、いつしか五七五キャラが定着。プロ4年目の昨季はキャリアハイの16本塁打をマークし、お立ち台で披露するのも定番となっていた。

それがまさかの封印宣言だ。沖縄・浦添での自主トレを公開した22日に、決断したという。本格化に向けての“卒業”のように感じられた。山口が休憩中に興奮しながら話した。

「スイングの軌道も変わったし、打球の方向とかも全部変わって。体の使い方をちょっと教えてもらったくらいで、勝手に打球も上がるようになって」

教わりたいと願い、教わり、着実に力を付けた。「あの体の使い方でよく去年16本打ったなと思います。これ、正直な意見です」とバッサリ言った山川から、右足の使い方を学んだ。「このままいけば、けっこう打てそうな気がします」。自分でそう言えるほど、身に付いたものがある。

動いて食べて、体重も100キロに達した。自身をキャラ付けした五七五を卒業し、バット1本で目立てる男になる。「山川さんのドスコイみたいなパフォーマンス系があればいいんですけど、16本じゃまだまだ。タイトルとったら考えたいです」。

山川取材で沖縄を訪れた私とは別に、山口のオンライン取材を行った現ロッテ担当記者に尋ねると「優勝したら渾身(こんしん)の一句」と約束したという。渾身(こんしん)の一撃。16本とはいえ、エース打ちを含め、効果的な1発を続けてきた。昨季16号は、ソフトバンクの最終戦V逸とオリックスの逆転優勝を決定づけ、意図せずパ・リーグの歴史を変えた。

そういえばロッテ担当での在任3年間では、彼から名前を呼ばれることは1度もなかった。それがこの日の短時間で2度も「金子さん」と呼ばれた。男は黙って、一撃必殺。考えてひねり出さなくても、山口航輝は強くまっすぐ表現できる若者だ。【金子真仁】

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