阪神石井大智投手(25)が、プロ初勝利を挙げた。1-1の8回に2番手で登板し1イニング無失点。直後の8回裏、チームが勝ち越しに成功した。

石井は秋田高専、独立リーグの四国IL高知を経て20年ドラフト8位で阪神入り。高専出身では09年ドラフト2位で巨人に入団した近大高専の鬼屋敷正人捕手以来だが、3年終了時でプロ入りしたため卒業した選手では初となる。「高専卒」で勝利を挙げた投手も史上初だ。

極めて特殊な環境で実力を磨いてきた。高専は5年制。「野球で飯を食っていきたい、と考えるような子が来る学校じゃないですから」と、秋田高専の教員は口をそろえてそう語る。卒業後の進路は、就職か大学への編入がほとんど。石井も環境都市工学を専攻し、文武両道の日々を送った。エースとして臨んだ3年夏は秋田県大会2回戦で敗退。4年冬には、卒業研究のため研究室に配属され、木造住宅の耐震性について研究した。

関東の大手企業から内々定も出ていたというが、秋田東中の同級生だった秋田商・成田翔が15年ドラフト3位でロッテに入団したことで「翔ができるなら俺にも…」と野球への思いが強くなった。5年生になる前の17年春、「野球で飯を食っていきたい」と覚悟を決めた。研究室にダンベルを持ち込み、警備員から「片付けなさい」と注意を受けたこともあった。

ずっと、雪辱の時を待っていた。プロ1年目の21年開幕戦。7回に登板するも失点し、先発藤浪の勝ち星を消してしまった。その相手が、ヤクルトだった。「変化球が入らなくて、あの時は直球を投げるしかなかったんです」と未熟だった。もうあの時の姿はない。2年の時を経て、勝ちパターンの一角を任されるようになった右腕が、うれしい1勝をつかんだ。【中野椋】

◆石井大智(いしい・だいち)1997年(平9)7月29日生まれ、秋田市出身。小3から野球を始め、秋田東中では成田翔(現ヤクルト)とチームメート。秋田高専を経て、18年から四国IL・高知でプレー。20年ドラフト8位で阪神入団。21年3月26日ヤクルト戦で1軍デビュー。今季推定年俸1250万円。175センチ、77キロ。右投げ右打ち。

◆高専 高等専門学校は、実践的・創造的技術者を養成することを目的とした高等教育機関。高等学校と同じく、中学校を卒業後に入学することができる。大きくは工業系と商船系の学科に分かれ、入学後5年間(商船学科は5年6カ月)の一貫教育で技術者を育成する。全国に57校あり、内訳は国立51、公立3、私立3。高専出身は09年ドラフト2位で巨人に入団した近大高専の鬼屋敷正人捕手以来2人目だが、3年終了時でプロ入りしたため、卒業した選手では石井が球界初。

▽石井の父智之さん(秋田市内の実家はテレビ中継がなくネット情報で初勝利を知り)「おめでとう。長かったね。山田選手に打たれた時はドキドキしたけど…。本人もホッとしてると思いますよ。まだまだこれからこれから。まだ一歩踏み出したところですからね」