バイブスを動かすEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)が、神宮こぶしに流れ出した。

8日、ヤクルトの投手練習は重低音に包まれた。レイブのような雰囲気の中、9日巨人戦に先発予定の小沢怜史投手(26)もキャッチボールをこなした。サイスニード、ヤフーレは、得意げにクラブミュージックに体を揺らしていた。

そんな時。どこからか「ぴいぴいぴい ぴいぴいぴい♪」という歌詞が聞こえてきたような気がした。スピーカーから流れる曲の世界観が変わった。今度は「しあわせのとんぼよ♪」。「CLOSE YOUR EYES」すれば、ここは桜島。球界最年長44歳の石川は「明日、鹿児島だからか! いいねぇ!」と笑った。

鹿児島と来れば、長渕剛。心にしみるBGMに、鹿児島初登板の小沢の気持ちも高まっているはず-。そんな淡い期待は「しゃぼん玉」のごとく消失した。小沢は「え? 」と戸惑いの表情を浮かべ、数秒の沈黙。「知ってます。存在は…」。無理に言わせた感があった。「いい曲だなと…」。そして「何か聞いたことあるなって曲はありました。自分で聞いたことはないので」。98年(平10)生まれの26歳の今があった。

仕掛け人は、まさかの展開に目を丸くしていた。長渕の“ゲリラBGM”は、高橋のアイデア。「気持ち、高めておいてもらおうと思って」と同学年の小沢への気遣いだった。ただ、小沢がピンと来ていなかったことを伝えると「え!知らんのすか?」と「セイッ!」と言わずとも、残念がるしかなかった。

無理もない? 小沢は登場曲で使用する「SUPER BEAVER」などのJ-POPがお好み。「洋楽もあんまり聞かないっす。聞いても何言っているか分からない」と現実派だった。

「君に幸せあれ!」と粋の演出をしてくれた高橋のためにも、今季初勝利でお返しする。かたい絆に想いを寄せて、高橋も11日巨人戦(神宮)で今季1勝目を目指す。長渕剛は分からなくとも、勝利の「乾杯」をし、みんなで「しあわせになろうよ」。【栗田尚樹】

◆小沢怜史 こざわ・れいじ。1998年(平10)3月9日生まれ、日大三島から15年ドラフト2位でソフトバンク入団。18年オフ、首の故障で育成契約。20年に戦力外通告を受け、21年からヤクルトで育成選手としてプレー。22年6月26日に支配下契約を結んだ。182センチ、87キロ。右投げ左打ち。