日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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博多で最大の歓楽街、中州でナンバーワンのクラブのママとは、もう長年にわたって、今も月に1回のペースで会っている。

この前、お土産にもらったのは、阿川佐和子の著書『生きるピント』だった。エッセイストで、作家の本人の丁寧な直筆サインも添えてあった。

本書に寄せられた「部下を叱れない上司」「酔った勢いで関係をもった彼女への対応」「セックスレスの彼氏」など仕事、恋愛、家族の悩みに“アガワ流”の答えをしている。

前にも『聞く力』という本をプレゼントされた。政財界など多方面で人脈をもつママは、博識で人生経験が豊富だから、仕事を含めて、何かにつけて吸収することが多い。

そんな博多の夜に話題に上がったのは、首位をキープする地元球団ソフトバンクだ。新加入の山川穂高が敵地の西武戦で大ブーイングを受けたという。

ただでさえ西武からのソフトバンク移籍には賛否の声が上がっていた。しかも人的補償問題で一悶着(ひともんちゃく)あったから、西武ファンの反応もストレートだったようだ。

山川の不祥事はさておき、一連の流れで起きた「人的補償問題」の件。NPB(日本野球機構)と選手会は、FA移籍にまつわるルール改善に向けた話し合いを深めるべきだ。

今年1月、西武が山川FA移籍の人的補償に、ソフトバンク和田毅を指名する方針を固めたことが表面化した。西武にとってはルールに則っての措置だった。

だが、それはホークス一筋、チームに優勝をもたらした功労者のベテラン左腕が、28人のプロテクトリストから外れたことを意味するものだった。

そこでファン、世間が一斉に反発、ソフトバンク球団は批判の的になって“炎上”し、事態は急転換する。和田から甲斐野央が“身代わり”になる形になったのだ。

球団がファンのリアクションを予想できなかったとしたら見込み違いだ。またルール上、人的補償で移籍が決まった当該選手に拒否権はなく「資格停止」になるはずだった。

1993年(平5)のFA制度導入から約30年間が経過した。移籍の活性化を促進するためだった。そして人的補償は球団間の戦力均衡を保つことを趣旨としてきた。

人身売買のイメージがついて回る「人的補償」の呼称変更、撤廃、ドラフト指名権の譲渡、プロテクトリストの一括管理など、さまざまな改正案が論点になるのだろう。

不透明な制度を看過すれば、今後もこういった事案が起こりかねない。プロ野球はだれのためにあるのか--。その視点に立てば、労使双方ともこのまま放置はできないはずだ。(敬称略)