<オープン戦:巨人5-7西武>◇19日◇甲府

 引退覚悟で臨む巨人脇谷亮太内野手(31)が開幕スタメンへ加速した。適時打を含む2試合連続マルチ安打。オープン戦規定打席に達していないが、打率3割8分5厘に浮上させた。昨年は11年オフの右肘手術による長期離脱で育成選手に降格。支配下選手に返り咲いた今季は常勝軍団で空位となっている二塁手の座を奪いにいく。

 胸には野球選手としての“辞表”をしまっている。「後がないのは分かっている。今年ダメならユニホームを脱ぐ覚悟がある」。だから脇谷のバットには魂が宿る。3点差を追う6回1死満塁。西武十亀の球を逆らわずに三遊間へと流し打つ。勝負強い脇谷の適時打を起点に、この回は一時逆転となる4得点の猛攻を演じた。

 昨年、プロ2年目からつけている背番号23の頭にゼロがついた。育成選手を意味する3ケタの番号。11年オフに右肘の靱帯(じんたい)再建手術を受け、昨年は9月末まで実戦復帰できなかった。先の見えないリハビリ、自分が不在でも勝利を積み重ねるチーム。「連覇を達成して復帰しても居場所があるのかな。そんなことばかり考えていた。ファンの人に『頑張って』と声を掛けられても手を上げられない自分がいた」。焦燥感が募る1年だった。

 だが昨オフに支配下選手に復帰し、やっと1軍で戦える権利を手にした。そして引退をも覚悟して臨む1年にすると誓った。自宅の部屋には「023」のユニホームを置いてある。「このユニホームは残さなきゃと思った。つらいときに見ると、あの時のことを思えばと考えられる。23番は1枚も残っていないですけど(笑い)」。つらい過去は未来への力となっている。

 17日のロッテ戦では1軍戦で897日ぶりの本塁打、そしてこの日は2戦連続マルチ安打で存在感を示した。オープン戦13試合中、7試合の二塁スタメン出場はチーム最多で、ここ5戦は固定されている。打率も規定打席には足りないが3割8分5厘と上昇。開幕スタメンの座へ大きく近づいている。「まずは開幕を目標にベストを尽くしたい。そして開幕だけにこだわらず、144試合しっかり出られるように」。辞表はシーズン後に笑って捨てられるはずだ。【広重竜太郎】