<楽天5-0ソフトバンク>◇9日◇Kスタ宮城

 マー君がプロ野球史に残る金字塔を打ち立てた。楽天田中将大投手(24)がソフトバンクを7回4安打無失点に抑え、プロ野球新記録となる開幕16連勝。昨季からは20連勝で、こちらは「神様」稲尾(西鉄)、松田(巨人)のプロ野球記録に並んだ。絶対エースの好投で、初優勝へ向け首位を走るチームは2連勝。貯金を、ついに球団史上最多となる20の大台に乗せた。

 歴史の証人となった満員のファンから歓声を浴びた。場内1周。田中は手を振って応えた。至福の時を終えたベンチ裏。「うれしいです。今日もファンの方々の声援、野手の方の助け、全員でつかみ取った勝利です」と真っ先に感謝の言葉で切り出した。ところが、「もっと込み上げてくるものがあると思ったけど…。やはりシーズンが大事な時期。まだ続くので、意外と普通ですね」と続けた。優勝へ向けた、通過点の16勝目だった。

 だからこそ、1点もやるつもりはなかった。5-0の7回。1死からソフトバンク長谷川に右越え二塁打を打たれた。続く江川への2球目。スライダーを引っかけ、地面にたたきつけた。暴投で1死三塁。その瞬間、マウンドから捕手嶋の方へ歩み寄り、「アー!!」と声を張り上げた。内野手が集まる。主将の松井がベンチの意思を伝えた。「前進(守備)か、お前に任すって」。田中に迷いはなかった。「前進でお願いします」と即答した。

 点差を考えれば、前進守備は避け、確実に1つのアウトを取りにいってもよかった。「点差があっても、点を取られるのは気持ち悪い。最後に1点を取られると締まりが悪い」と、試合の流れを考えた判断だった。仕切り直して江川を追い込むと、最後はこの日最速154キロを内角高めにねじ込んだ。空振りで「狙っていた」三振を奪う。さらに、続くラヘアも154キロで中飛。完璧に差し込ませると、相手をグッとにらんでベンチへ下がった。

 積み重ねた16の白星。あこがれの斉藤和巳氏も抜いた。もう上には誰もいない。だが、姿勢は変わらない。

 田中

 理想は追い求めていくもの。理想通りなんてないです。追い求め続け、自分を高めていこう、高めていこうと。選手である限り、そうやる。そういう“気持ち”がなくなった時、僕は野球をやめます。

 心情を問われ、力説した。気持ちこそ、原点だ。7月、南北海道大会を勝ち進む母校駒大苫小牧の後輩たちに「ここまで来たら気持ちが大事」と激励メッセージを送った。決勝で敗れ、07年以来の夏の甲子園出場はならなかったが、大事なことを伝えたかった。

 会見終盤には「今日は8月9日。野球の日ですもん!」と言った。キョトンとする周囲を見て「しょうもないこと言いました」と笑わせた。野球の申し子が、誰も見なかった高みへ達した。【古川真弥】