力士は、関取になってからサインができる。幕内、十両合わせて現在70人。各力士の画数を見てみると、そこに喜怒哀楽が表れる。

 再十両を本名で取っている「山口」は言う。「なにせサインが楽です。角界一、楽じゃないですかね」。画数はわずか6画。関取の中で1桁はただ1人で、もっとも少ない。以前のしこ名「大喜鵬」は、自己最高位の前頭16枚目を超えないと戻すつもりはない。「サインが楽」な時間は果たして、長いのか、短いのか。

 反対に最も画数が多いのは42画の「徳勝龍」と「阿夢露」。阿夢露は「今は慣れたけど、最初は1つ1つ、書く時間がかかった。取組が終わって帰るときに求められると大変でした」と苦笑い。徳勝龍は「今は崩して流れで書いています。師匠に『何を書いているか分からない』と言われましたが、誰か分からないのがサインかなと」と笑った。

 一文字力士にも恩恵はあり、15画の「輝」は「一文字で良かった」と冗談っぽく笑う。ただ「土俵の鬼」と呼ばれた初代横綱若乃花の系譜を継ぐ部屋は、崩してはならない習わし。「師匠に、読めなければ意味がないと言われています」。

 いずれにしろ、そのサインに価値をつけられるかは、自分次第。【今村健人】